睡眠薬の減薬とTMS治療

「睡眠薬をやめると眠れなくなってしまう」

なかなか睡眠薬がやめられず、悩まれている方は少なくありません。

どうしてもやめられない場合は、TMS治療が減薬のサポートとなる可能性があります。

ですがその要因は個人差があり、TMS治療が有効かどうかは専門家の判断が必要となります。

ここでは睡眠薬の減薬について考えながら、TMS治療の可能性についてお伝えしていきたいと思います。

睡眠薬がやめられない

ベンゾジアゼピン系薬の減薬イメージしたイラストです。

不眠で悩まれている方はとても多く、その場合には睡眠薬が処方されることも多いです。

睡眠薬にも様々な種類がありますが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が一般的な睡眠薬として広く処方されています。

即効性のある催眠作用が期待でき、またお薬そのものの安全性は高いため、これまで広く使われてきました。

しかしながらお薬が体に慣れてしまうと、なかなかやめられなくなってしまいます。

最近では、オレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ・デエビゴ)やメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)など、自然な眠気を強める依存性が極めて低いお薬も処方が増えています。

しかしながら今でもベンゾジアゼピン系睡眠薬は、適切に使っていけば非常に有用なお薬ですので、処方されることも多いです。

アルコールから睡眠薬のデメリットをイメージ

アルコールのデメリットをイメージしたイラストです。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬のデメリットについては、アルコールのデメリットを考えるとわかりやすいです。

睡眠薬もアルコールも作用のメカニズムが似ています。

GABAの働きを強め、脳の神経細胞の働きを抑制することで作用が表れます。

ですからアルコールのデメリットと同様に、

  • 認知機能への影響
  • 依存性

などに注意が必要です。

睡眠薬の認知機能への影響は?

アルコールでは、認知機能への影響は明らかです。

アルコール中毒の方の脳は明らかに委縮が進んでいて、認知症発症のリスクも健常人に比べて高まります。

それに対して、ベンゾジアゼピン系のお薬が認知機能に対して、中長期的な悪影響があるかは専門家の間でも見解が分かれていました。

カナダでおよそ1万人を10年間追跡調査した研究では、1.3倍の認知機能悪化がみられたが、認知症の原因とは関係がないという結論でした。
【高齢者に認知症や認知症閾値以下の認知障害リスクがベンゾジアゼピン系の使用と関係しているか?】

その一方で、ベンゾジアゼピン系の使用によって認知症リスクが1.3~1.4倍増加したという報告もあります。
【初発症状バイアスをコントロールした下での、ベンゾジアゼピン使用に関連する認知症リスクのシステマティックレビューとメタアナリシス】

そもそも認知症になりやすい方が不眠になりやすいのかもしれず、結果的にお薬を服用することが多い可能性もあります。

そのことも加味して、1.3~1.4倍をどのように考えるかは、個人の主観によるところが大きいです。

睡眠薬の依存性と常用量依存

睡眠薬のもうひとつの問題が、「依存性」です。

睡眠薬による依存は、「常用量依存」と呼ばれる状態になることが多く、「睡眠薬は増えていかないけれども中止すると眠れなくなる」という状態に陥りがちです。

2つの依存要因

睡眠薬の依存性を考えていくにあたっては、

  • お薬の要因
  • 本人の要因

こちらの2つを考えていく必要があります。

お薬の要因

お薬の依存に関する身体依存、精神依存、耐性のイラストです。

お薬による依存を考えていくには、3つのポイントがあります。

  • 身体依存
  • 精神依存
  • 耐性
身体依存

お薬が常に体にある状態になると、脳の機能がバランスをとって、その状態にあわせるようになります。

このように身体に慣れた状態から急にお薬が抜けると、離脱症状となって心身の不調をきたします。

特に睡眠薬では、

  • 反跳性不眠

という状態になってしまうことがあります。

反跳性不眠について、グラフでわかり易く示しました。

このように、減薬によって過敏さが増してしまい、以前よりも不眠症状が強くなってしまうことがあります。

精神依存

精神依存とは、その名の通りで心の依存です。

「お薬がないと眠れない」という考えが強くなり、薬を飲まないと不安で眠れなくなってしまいます。

超短時間型や短時間型といった効果の実感が大きい睡眠薬ほど、精神依存が認められます。

精神依存が強いお薬は、ときに乱用につながってしまいます。

睡眠薬の乱用については、睡眠薬・鎮痛剤・下剤が乱用されやすい理由をお読みください。

耐性

耐性とは、お薬が慣れていきだんだん効果が薄れていくことです。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、飲み続けているとお薬が少しずつ体に慣れていきます。

そのペースはお薬によっても異なりますが、2か月~半年余り継続していくうちに慣れて耐性ができていきます。

アルコールとの違い
アルコールと薬の依存は異なり、常用量依存となることをイラストで表現しています。

これまで取り上げて3つの特徴は、まさにアルコールと同じです。

アルコールは合法的ではありますが、脳に作用する影響の大きさは、「酔う」ことからも明らかです。

むしろアルコールの方が、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬よりも依存しやすいですし、「寝酒」は不眠を悪化させてしまいます。

アルコールと睡眠薬の違いは、精神依存の部分が最も大きいです。

睡眠薬は、「お酒に酔う」といった形での精神的なメリットは少ないのですが、お薬によって眠れる実感は強いお薬です。

このため量が増えていくことは少ないのですが、減らそうとすると不安が強まってしまいます。

このような状態のことを、「常用量依存」と呼びます。

ですから睡眠薬は、「やめたいけれども減らせない」と悩まれる方が多くなります。

睡眠薬を減らせない本人の要因

薬を減らせない本人の要因をイラストにしています。

どうしてもお薬の問題に目が行きがちですが、お薬を減らせない本人の要因にも目を向けることが大切です。

様々な要因が考えられますが、具体的には以下のようなケースがあります。

  • 病状が本質的に良くなっていない
  • お薬を減らすことでの心理的な影響

反跳性不眠などを経験すると、「お薬がなくなったから眠れなくなってしまった」と感じてしまうでしょう。

しかしながら少しずつ減薬していけば、反跳性不眠は和らげることができます。

例えば1/4など、ごく少量の減薬でも明らかな不眠となってしまう場合は、本人の要因も考えていく必要があります。

病状が良くなっていない

不眠としての本質が良くなっていない場合、睡眠薬を減らしたら眠れなくなってしまうのは当然でしょう。

特に中途覚醒や早朝覚醒については、その背景にはうつ症状や不安障害が大きい可能性があり、原因治療が大切になります。

慢性的な不眠症の原因として多い神経生理性不眠では、不眠恐怖と睡眠妨害連想が悪循環しています。

睡眠に対する認知(とらえ方)が柔軟になっていないと、再び不眠につながってしまいます。

不眠症の症状・診断・治療

薬を減らすことでの心理的な影響

特に入眠障害については、「自信があるか」が非常に大きなインパクトを持ちます。

お薬が減ったという事実が自信を揺るがしてしまい、「また眠れなくなってしまうのではないか」という睡眠妨害連想を強めてしまいます。

その結果として眠れなくなってしまうことも多く、実際にTMS治療の研究報告でも、不眠に対するプラセボ効果の大きさが示されています。

スタンダートな減薬方法とは?

それではまず、睡眠薬の一般的な減薬方法についてみていきましょう。

睡眠薬を減らしていくときの鉄則は、「自信を大切にすること」になります。

ベッドでゴロゴロして眠れない経験をできるだけ減らしたいため、「このままいったら眠れない」と感じたら早めに見切りをつけ、元の睡眠薬の量に戻します。

どこかで眠れる日がでてくれば、それを利用して減薬をすすめていきます。

睡眠に良い生活習慣をあわせて取り入れながら、少しずつ睡眠薬を減量していきます。

どうしても少しずつ減薬できない場合は、他のタイプの睡眠薬を併用することで、少しずつ減量していきます。

よく使われるお薬としては、ベルソムラやデエビゴなどが挙げられます。

生活習慣の見直しが重要

睡眠薬を減薬していくためには、生活習慣の見直しが大切です。

生活習慣の意識をしていくことで、「自分の努力で不眠を解消できた」と思えることも大切です。

  • アルコール・カフェイン・タバコの見直し
  • 自信・リズム・体温を意識
  • 睡眠日誌の習慣

睡眠によい生活習慣としては以上のようなことがありますので、できることから実践してみてください。

不眠症と生活習慣

アルコール・カフェイン・タバコ

アルコールは睡眠薬とも作用が似ているため、睡眠薬を辞められない方は、まずはアルコールから向き合う必要があります。

お酒を毎日飲まれる方は、減量も大切ですが、できれば連続した休肝日を作ることが大切です。

体からアルコールが抜ける状態があることで身体依存もやわらぎ、全く飲まない日を作れることで精神依存もコントロールできるようになります。

カフェインやタバコも、睡眠に対して悪影響があることが分かっています。

自信・リズム・体温

睡眠に良い生活習慣をまとめると、大きく3つになります。

自信

とくに入眠にとっては、「ベッドに入れば私は眠れる」という自信は大切になります。

そのためには、

  • ベッドでゴロゴロして粘らない
  • 眠れないときは起きる

ということが大切です。

ベッドで眠れなかったという失敗経験ですが、なるべく減らしていくことが大切です。

また早めに寝ようとするのは逆効果で、むしろ「最低この時間までに眠れればよい」という睡眠時間のデッドラインを決めて、それまでは自然な眠気がきたら就寝するほうが良いです。

リズム

体内時計のリズムも大切で、起きる時間から1日が始まります。

ですから起床時間をなるべくそろえて、昼寝も30分程度と短めにとることが理想です。

体内時計のリズムにはメラトニンというホルモンが深く関係していて、このホルモンは「光」の影響を強く受けます。

ですから日中に光をしっかりと浴びて、夜は避けるほうが睡眠にはプラスに働きます。

いわゆる「ブルーライト」は波長が短い刺激の強い光で、網膜まで届くために夜はなるべく避けたほうが良いです。

体温

体温については、冬眠を考えるとわかり易いです。

動物は冬の獲物が少ない時期は無駄なエネルギーを使わないために、冬眠することで節約しています。

このとき身体の機能は低下して、体温も低下しています。

睡眠中は覚醒しているときに比べて体温は低下していて、体温が高いところから下がっていく時が最も睡眠をとりやすくなります。

このため入浴の時間などを意識したり、就寝環境を意識することで、睡眠の質が高まります。

睡眠日誌

自分自身の睡眠状況を正しく理解するために、睡眠日誌をつけていくことも方法です。

睡眠日誌をつけていくことで、眠りを客観視できるようになります。

できればカウンセラーなどと振り返りの機会が作れるほうが良いです。

睡眠日誌

TMS治療を活用した睡眠薬の減薬

rTMS治療については、減薬を目的に治療での研究はあまりなされていません。

ですがTMS治療の効果を活用することで、結果的に睡眠薬の減薬につながる可能性があります。

効果を期待していく方向性としては大きく3つありますが、可能性があるという段階で治療効果がハッキリしていない部分もあります。

  • 不眠症状の軽減
  • 離脱症状の軽減
  • 心理面での効果

ベンゾジアゼピン系睡眠薬を減量できない要因は個人差があります。その要因を推測し、TMS治療が生かせるかを検討していきます。

不眠症状の軽減

TMS治療は、睡眠障害(不眠症)にも効果が期待できます。

基本的には右DLPFC(背外側前頭前野)をターゲットにした低頻度刺激になります。

睡眠状態が改善することで、睡眠薬を減薬しやすくなります。

不眠症とTMS治療

離脱症状の軽減

物質依存での離脱症状については、非常にわずかではありますが、メタンフェタミン依存症で報告がなされています。

メタンフェタミンは、ヒロポンという覚醒作用のあるお薬(覚せい剤)として昔に処方されていましたが、現在では依存性もあり処方されることは極めて稀です。

こちらの論文では、左DLPFC高頻度刺激(10Hz10分を2日インターバル挟んで10日)にて離脱症状や睡眠の質、不安やうつが改善したという報告があります。
【離脱症状をターゲットとした男性メタンフェタミン依存患者でのTMS】

心理面での効果

TMS治療では、心理的な側面で減薬を進めていける可能性があります。

不眠症の研究でも、TMS治療そのもののプラセボ効果の大きさと、治療を重ねるごとにプラセボ効果も増加していくことが示されています。

それ以外にも、以下のような点があります。

  • 減量するほどTMS治療の効果が強まるポジティブな循環
  • 脳を無理やり刺激して使わせることでの疲労感
  • お金をかけて治療しているという心理的なイメージ
  • こまめに通院することでの行動活性化

TMS治療では、睡眠薬が減るほど効果が期待しやすくなります。

脳を刺激する治療ですから、抑制するお薬がなくなるほうが治療効果が期待しやすくなるのです。

またTMS治療は、脳に外部から刺激を与えて強制的に使わせている治療ですので、脳に疲労感を与えます。

お金をかけて治療していることもあり、減薬にあたっても覚悟をもって臨むことができます。

またTMS治療は最低週2~3回の通院が必要となりますので、行動活性化の治療効果もあります。

当院のTMS治療プラン

抗不安薬についてのTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。

  1. 左背外側前頭前野への高頻度刺激
  2. 右背外側前頭前野への低頻度刺激

左DLPFCへの高頻度刺激は、依存症としての側面が強いケースや、離脱症状によって減薬が困難になるケースに有効である可能性がありますが、本当に効果があるかは不明です。

うつ症状など気分の不安定さが背景にあるケースでは、左DLPFC高頻度刺激が治療的な意義があります。

右DLPFCへの低頻度刺激は、不眠自体の改善に重きを置く必要があるケースに検討します。

不安が強かったり、イライラ感や焦燥感が目立つようなケースなども、右DLPFC低頻度刺激の方が適しています。

当院でのTMS治療費

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  1. 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  2. 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  3. 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、離脱症状も相まってなかなか減薬できずに、悩まれている方が少なくありません。

TMS治療をうまく活用して、減薬に取り組むことができる場合があります。

このためにはTMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了