発達障害とTMS治療

発達障害とTMS治療について、ご紹介していきます。

TMS治療は、発達特性そのものへの効果が期待できるかは不明といわれています。

有効性が報告されている研究もありますが非常にわずかで、当院でも技術的には可能です。

発達障害の二次性のうつを中心に、当院でもかなりの症例数に基づく治療統計もございますが、効果は限定的といわざるを得ません。

このため発達障害では状態をしっかり評価し、TMS治療は気持ちの安定によって発達特性が落ち着くことを目指していきます。

子供に対するTMS治療は倫理的ではなく、大人の発達障害のみとなります。

発達障害とは?

発達障害のタイプについて、表にしてまとめました。

発達障害とは、脳の発達が通常と異なることで、日常生活に不便が生じている病状です。

他者から見て明らかに通常とは異なっているように見える場合もあれば、いわゆるグレーゾーンとよばれるように、発達障害での悩みがすぐにわからない場合まで、程度も特徴も人によって様々です。

発達障害の代表的な分類として、

  • 自閉症スペクトラム障害(ASD)
  • 注意欠如・多動性障害(ADHD)
  • 学習障害(LD)

この3つがあります。これらがオーバーラップして、個人差が大きいのが特徴です。

自閉症スペクトラム障害

自閉症スペクトラム障害では、自然と状況を理解したり想像することが苦手で、コミュニケーションがズレてしまったり、状況にそぐわない行動をしてしまいます。

グレーゾーンですと、「KY」と呼ばれて悩まれている方も少なくありません。

ADHD

ADHDでは、うまれもって注意を維持していくことが苦手であったり、衝動が抑えられなかったり、ソワソワして落ち着かないといった症状のために、仕事や学業などに支障が出てしまうことがあります。

学習障害

学習障害は、読み書きや計算といったなかで、特段に苦手なものがでてしまいます。学業で悩むことが多く、大人になっていくにつれて得意なところでカバーして悩みが薄れていくことが多いです。

発達障害は基本的に生まれ持っての特性ですが、大人になってから自覚することもあります。

発達障害について詳しくは、発達障害のページ(こころみ医学)をご覧ください。

発達障害でのTMS治療の現状

発達障害に対するTMS治療の適応と期待できる効果をイラストで簡潔にしめしました。

発達障害でのTMS治療を希望されて受診される患者様が、当院でも少なくありません。

「他院で発達障害と診断されてTMS治療をすすめられた」という方が多いのですが、そもそもの診断から考えていく必要があります。

本当に発達障害?

発達障害の診断には、幼少期から現在でのエピソードの問診が大切です。

最近はQEEG検査という一般的でない検査だけで診断されているケースがあります。QEEGのみでの診断は、適切ではないです。

TMS治療は効果ある?

そして発達障害そのものを改善する目的では、TMS治療の効果はわかっていません。

TMS治療が役に立てるのは、発達障害に伴ううつ症状の改善することで、困っていた発達特性がやわらぐと考えていただく方が良いです。

ですからTMS治療だけでは、発達特性を改善する中長期的な効果を期待することは難しいです。

TMS治療で期待できるのは、情動の安定によって発達特性も落ち着く可能性があるということになります。

子供でもTMS治療は大丈夫?

ご両親からお子さんの相談をいただくこともあります。TMS治療は18歳以上に推奨されており、脳が未発達な子供にTMS治療を行うことはリスクが大きいです。

表面的に安全だとしても、他の脳の部分にどのような影響を与えるかなどはわかっていません。日本精神神経学会の適正使用指針でも、18歳未満のTMS治療は認められていません【日本精神神経学会HP】

また18歳未満に対するrTMS療法だけでなく、発達障害そのものに対するrTMS療法についても、日本精神神経学会でも注意喚起がなされています。 【rTMSの適性使用について】

TMS治療は根本治療になる?

発達障害についての治療効果を過大にうたっている医療機関もあり、海外でも問題となっています。

発達障害の根本的な治療を目的としたTMS治療は、どのような治療方法が適切かも定まっていないために実験的な試みとされていて、特に子供に行っている場合は倫理的に適切でないと考えられています。

発達障害に対するrTMS治療方法と費用

発達障害に対するTMS治療のエビデンスに基づいた治療法をご紹介していくイラストです。

rTMS治療は、うつ症状を伴う発達障害に対する治療効果に対して効果を期待していきます。

その結果として発達特性が和らぐケースもありますが、永続的な効果を期待することは現時点では難しく、一時的となる可能性が高いです。

このためTMS治療だけでなく、その他の治療も併せて行っていく必要があります。

発達障害のTMS治療プラン

発達障害についてのTMS治療としては、基本的に大きく2つの方法が行われます。

  • 左背外側前頭前野への高頻度刺激
  • 右背外側前頭前野への低頻度刺激

うつ症状と同じ治療方針ですが、それぞれの刺激方法によって臨床的な効果の違いがあります。

それを踏まえて、効果が期待できるTMS治療を行っていきます。

発達特性に効果が期待できるプラン

発達障害では、うつと同じ背外側前頭前野(DLPFC)領域を治療ターゲットとして少しずつ研究がなされています。

発達障害の患者さんの脳では、GABA受容体が減少して大脳皮質が興奮に傾いている(興奮抑制比が上昇)といわれています。

このため、低頻度刺激によって抑制することを根拠に研究が進められています。

DLPFCに対する左低頻度刺激や右高頻度刺激での研究報告などもありますが、無気力や社会意識にネガティブな影響が出るという報告もあります。

効果とリスクが判明しておらず、実験的な方法といわざるを得ません。

当院でのTMS治療費

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  • 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  • 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  • 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

当院でのTMS症例(発達障害)

発達障害に対するTMSのエビデンス

発達障害でのTMS治療のエビデンスの高い論文をご紹介します。

論文について詳しくは、【自閉症スペクトラム障害の治療のためのrTMS:システマティックレビューとメタアナリシス】をご覧ください。

こちらの研究では、「発達障害の治療にTMS治療が役立つ可能性はあるが、最適な刺激部位も方法もわかっておらず、現在のエビデンスではTMS治療を発達障害で行うだけの根拠は不十分」と結論付けられています。

治療ターゲットとしては、基本的には左右のDLPFC低頻度刺激が多く、皮質を抑制することでの効果を期待しています。

その一方で背内側前頭前野(dmPFC)に対しては、高頻度刺激で皮質を興奮させる効果を期待しています。

これは他人の心を理解しようとする「心の理論」と呼ばれる脳の働きを強めることを期待して行われています。

このような研究を総合的に分析すると、常同行動や社会性、実行機能での中程度のエフェクトサイズが示されましたが、研究の質が低くて根拠とならないという結論となっています。

その他の論文

たとえば、右DLPFCのiTBS刺激(高頻度刺激)で実行機能と常同行動を改善するという結果がでていますが、これは10人の観察によるもので、これ以外は報告がありません。【自閉症スペクトラム障害に対するiTBS:非盲検パイロット研究】

また発達障害のTMSに関する論文は、都合がよい結果だけが論文化されているリスク(出版バイアス)も高いといわれています。

発達障害に対する薬物療法

発達障害とTMS

発達障害に対する治療は、症状に合わせた薬物療法が基本になります。

基本的にお薬の役割はサポートにすぎず、少しでも症状を安定させて環境に適応しやすくするために使っていきます。

治療の考え方

発達障害は生まれ持っての特性ですので、それ自体を治療して改善することは困難です。

お薬でもTMS治療でも特性を改善することは難しいと考えていただき、その特性を理解して付き合い方を見つけていくことが大切です。

自身の理解を深めるために、必要に応じてWAISやWISCといった知能検査(複雑心理検査)を行うことがあります。

そして環境の調整や周囲のサポートも含めて、本人が生活を送る上での「生きづらさ」を和らげていき、自己肯定感をもって生活できることを目指していきます。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

発達障害では、うつ症状の軽減のためにTMS治療が役に立ちます。

発達特性へのポジティブな効果は、現時点では明確になっていません。

適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了