TMS治療の副作用と安全性

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TMS治療のメリットは、その安全性の高さです。

脳に刺激というと怖いイメージがあるかもしれませんが、刺激した時の頭痛くらいで、お薬のように目立った副作用もありません。

とはいっても磁気で脳刺激を行う特性から、大きな副作用のリスクがある方には避けるべきとされています。

ここではTMS治療の副作用(好ましくない結果)と絶対禁忌(絶対ダメ)と相対禁忌(できれば避けたほうが良い)について、詳しくお伝えしていきます。

rTMS治療の副作用

TMSの代表的な副作用をイラストにしました。

rTMS治療は副作用が少なく、安全性の高い治療であると考えられています。

よくある3つの副作用

頻度の多い副作用として知られているのは、以下の3つになります。

  • 頭皮痛・刺激痛
  • 顔のけいれん・不快感
  • 頭痛

になります。

TMS刺激毎に頭部の筋収縮が生じるため、それに伴う違和感や痛みは必発ですが程度はそれぞれです。

しかしながらTMS治療はほとんどの患者様にとって初めての経験になりますので、不安や恐怖から刺激時の痛みが増してしまうこと(ノセボ効果)もあります。

rTMSの安全性・忍容性・ノセボ効果

頭痛の実際

このような心理的な側面もありますし、刺激の強さも異なるために、痛みの感じ方は人それぞれです。

治療を行いながら眠ってしまう方もいれば、痛みを必死にこらえてらっしゃる方もいます。

副作用といえるほどの痛みは5%ほどといわれていて、多くの場合は数回行うことで慣れてくるため、治療の間ずっと苦しむことは稀です。

頭痛がつらいときの工夫

またこの様な痛みは、基本的に刺激時のみの一過性のものとなります。

痛みの原因は筋肉を刺激してしまうことに由来するため、コイルの角度を調整して軽減できることがあります。

あまりに痛みが強い場合は、刺激強度を慣れるまで下げることを検討します。

一時的に鎮痛剤を治療前に使うことで、慣れるまでカバーすることもあります。

まれにTMS治療後に緊張型頭痛が続くことも、同様にカバーしていきます。

そのほかの副作用

それ以外の副作用としては、頻度は非常に少ないですが、

  • 耳鳴りやめまいの悪化
  • 聴力低下
  • 急性の精神症状変化(躁転など)
  • 認知機能変化
  • 局所熱傷

などが知られています。

この中でも比較的にみられるのが、耳鳴りやめまいになります。

TMS治療では磁気刺激の音が大きいため、聴覚に影響することがあります。

耳栓を使うと30db程度低下するため、気になる方は耳栓をご用意いただいたほうがよいでしょう。

双極性障害の患者さんにTMS治療を行った際に、治療を要するような躁転のリスクは1%弱と報告されています。

また重篤な副作用として知られるのは、とても頻度は低いのですが、けいれん発作が挙げられます。

けいれん発作について

TMSのけいれん発作のイラスト解説です。

rTMS治療で注意が必要なのは、けいれん発作になります。

しかしながら、強い不安などが引き金になった失神(迷走神経反射)の方がけいれんより頻度が高いといわれており、その区別が難しいことも少なくありません。

けいれんは回復に時間がかかることが多く、数分かかります。

けいれん発作の頻度と実際

けいれんの頻度としては、1セッション当たり0.003%未満との報告(30,000回の治療に1回)があり、30回のセッションを受ける場合は0.1%未満となります。

最近の報告では0.001%(89,000回に1回)と、けいれん発作のリスクはもっと頻度が少ないという報告されています。

またけいれん発作が生じる患者さんは、薬物やアルコールなどの問題が深く、脳の萎縮などの変化が生じているケースが多いといわれています。

rTMS治療によるけいれん発作は、実施中か実施直後におこります。

けいれん発作は比較的短時間(通常は1分未満、5分以内)であることが多く、長期的な後遺症は報告されていません。

帰宅後に時間がたってからけいれんが生じた場合は、ほかに原因があると考えられます。

けいれん発作のリスク因子

またけいれんがおこりやすい条件として、

  • 刺激方法
  • 患者様の状況

の2つがあります。

刺激方法
  • 刺激頻度が高い
  • 刺激強度が強い
  • 刺激時間が長い

とけいれんが誘発されやすいといわれています。

ガイドラインでは、1週間に15,000発以内の刺激数にとどめておくことが推奨されています。

けいれん発作は、前頭前野に隣接する運動野への興奮の広がりが関係しています。

このため刺激中に右手の親指が動いていないかを注意深く観察する必要があり、もし右手の親指が動く場合は技師に伝えてください。

患者様の状況
  • 寝不足
  • アルコール
  • 低血糖
  • けいれんを惹起しやすい薬物(三環系抗うつ薬など)
  • rTMS中の居眠り
  • 薬物療法の変更(急な減薬)

などが挙げられます。

お薬を使いながら治療を受けることも可能ですが、効果を高めるために、お薬の減量調整や刺激方法の配慮が必要な場合もあります。

rTMS治療が難しい場合

TMS治療の副作用と安全性

rTMS治療を行うことで安全性が問題となるのは、以下の2つの観点になります。

  • 体に金属類がある(磁気を利用するため)
  • けいれんリスク

体に金属がある

TMS治療の禁忌NGのイラスト説明です。

金属が頭や首など、刺激部位の近くにある場合は絶対禁忌(NG)となります。

たとえば、人工内耳や磁性体クリップ、深部脳刺激や迷走神経刺激などの刺激装置などになります。

体内埋め込み型の投薬ポンプや心臓ペースメーカーなども該当します。

義歯やインプラントといったものも注意が必要ですが、rTMS治療は実施可能ではあります。

けいれんリスク

  • けいれん誘発のリスクが高い
  • てんかんによるリスクが高い

場合に注意が必要になります。

けいれん誘発のリスクについては、お薬やコンディションなどを総合的に考えていく必要があります。

けいれんしたことがある患者様やてんかんの家族歴がある場合などは、脳波や画像検査で精査が望ましいです。

けいれんのリスクが高い場合は、rTMSの実施を慎重に検討します。

けいれんによるリスクが高いケースとしては、妊娠や重い心臓の病気がある場合などが挙げられます。

妊婦はrTMSは受けるべきではない?

TMSと妊娠授乳の比較についてイラストにしました。

最近の心のお薬は妊娠への影響は小さくなっているとはいえ、妊娠中はできるだけお薬は使いたくはないかと思います。

しかしながら現在のガイドラインでは、妊娠中のrTMS治療はけいれんのリスクがわずかとはいえ否定できないので、慎重に検討すべきとされています。

TMS治療の妊娠への影響はほとんどないが…

TMSの磁場はすぐに減衰するために、刺激部位から70㎝離れていれば胎児への影響はほとんどないと考えられています。

妊娠中にrTMSを実施したケースで問題が生じたという報告は、現時点ではされていません。

実際にオーストラリアやニュージーランドのガイドラインでは、妊娠中のrTMSが許容される方向性にあります。

けいれんリスクがあるので非推奨

しかしながら稀ではありますが、重篤な副作用として「けいれん」があります。

妊娠中にけいれん発作がおきても多くの場合は問題ないのですが、

  • 転倒による事故
  • 胎児の低酸素脳障害
  • 母体の呼吸停止

といったことが否定できません。

このため妊娠中のrTMSは慎重に検討するべきとされているのです。妊娠中の方は、主治医にご相談ください。

授乳中のTMS治療は安全?

反対に授乳中の患者さんには、rTMS治療は大きな問題がありません。

お薬が多少なりとも乳汁移行性があることを考えると、TMS治療は有効な治療選択肢と思われます。

詳しくは、産後うつ病のページをご覧ください。

よくあるTMSの副作用にまつわる誤解

TMS治療では、イメージから副作用について誤解されていることがあります。

ここではよくある3つの誤解をご紹介します。

TMS治療の副作用に関する3つの誤解についてまとめた図表になります。

認知に悪影響があるのでは?

TMSは認知機能に悪影響は認められません。

むしろ研究レベルですが、ストーリーの遅延再生などに良い影響があるという報告もあります。

言語記憶が改善し、運動反応時間が減少するという良い報告もあります。

健常人でも認知機能改善する報告もあり、少なくとも安全性研究でも、TMSを受けた方の長期的な認知機能への悪影響は報告されていません。

TMSは脳にダメージを与えるのでは?

ガイドラインの範囲内で安全に行われたTMS治療では、脳組織に病理学的変化は確認されていません。

これはaccelerated-TMSによる集中治療でも、同様のことが報告されています。

昔から行われているECT(電気けいれん療法)でも安全性は高いことが分かっているため、TMSによる脳へのダメージが及ぶ可能性は極めて低いです。

TMSは片頭痛をひきおこす?

TMS治療の副作用として頭痛が多いため、片頭痛を悪化させることを心配されることがあります。

TMS治療では片頭痛のリスクを増加させず、むしろ治療効果が認められています。【片頭痛に対するTMSの有効性:ランダム化比較試験のメタアナリシス

これをうけてアメリカFDAは、急性片頭痛治療のためにシングルパルスデバイスのeNeuraが認可されています。

当院での副作用への対応

TMS治療の副作用と安全性

当院では、たとえわずかなリスクであったとしても、万が一の対応はとれるように備えています。

救急カートやAEDを用意し、救急経験の長い看護師が中心となり、周囲の総合病院とも連携して対応できる体制をとっています。

また隣駅の元住吉こころみクリニックには内科医師が毎日診療しており、いつでも連携がとれる体制をとっています。

副作用が少なく安全性が高いrTMS治療ではありますが、万が一に備え、安心して治療を受けていただける体制を整えています。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場にたってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

野田 賀大

監修者紹介

野田 賀大

慶應義塾大学医学精神・神経科学教室特任准教授/当院顧問

精神科専門医/指導医/精神保健指定医