慢性疲労症候群とTMS治療

慢性疲労症候群とTMS治療

近年はコロナ後遺症のひとつとして話題になることがでてきた慢性疲労症候群。

慢性疲労そのものや慢性疲労症候群に対しては、十分なエビデンスはありませんが、いかにも確実な効果があるようにうたってTMS治療を実施している医療機関も認められます。

残念ながら慢性疲労症候群に対しては、疲労そのものに対しての治療効果はハッキリしていません。

当院ではコロナ後遺症としての慢性疲労についてパイロット研究を実施しましたが、慢性疲労の改善は認められましたが、残念ながら軽度にとどまりました。
【日本でのコロナ後遺症の神経精神症状に対するTMS治療戦略の実臨床研究】

しかしながら、「うつ症状を伴っている場合は効果が期待できる」のは間違いありません。

慢性疲労症候群に対するTMS治療は、うつとターゲットが同じDLPFCになりますので、総合的に効果を期待していける場合があります。

慢性疲労症候群の症状を判断してTMS治療を行うにあたっては、心の治療経験が豊富な医師の判断が必要となります。

ここでは慢性疲労症候群についてみていき、薬に頼らないTMS治療の可能性についてお伝えしていきます。

慢性疲労症候群とは?

慢性疲労症候群とは?

慢性疲労症候群(CFS:Chronic Fatigue Syndrome)とは、原因がよくわからない慢性的な疲労感に悩まされる病気になります。

その疲労感は疲れや易さといった日常の疲労を超えて、明らかに倦怠感などがあって、十分に休養を取っても回復しないのが特徴です。

その原因には諸説ありますが、ストレスとウイルス感染が関係していると考えられていて、免疫異常の異常によって脳や身体に慢性的なダメージが加わるのではと考えられています。

診断のポイント

慢性疲労症候群と判断するポイントとしては、大きく3つあります。

  • 疲労感が始まった時期がはっきりしている
  • 休息しても改善が限定的
  • 学業や仕事、家事など生活に支障がある

このような特徴がある場合を、慢性疲労症候群と考えます。

病名で誤解されることが多い

慢性疲労症候群は、その病名から「ただの疲労だろう」などと誤解されることも多く、その重さが伝わりにくい病気です。

意欲や気力があっても、身体がどうにも言うことをきいてくれない病気なのです。

この病名は1988年にアメリカで提唱され、イギリスやカナダでは筋痛性脳脊髄炎(ME:Myalgic Encephalomyelitis)と呼ばれており、近年は「疲労」のもつ誤解を防ぐ意味もあり、ME/CSFと両方記載されることが一般的となっています。

慢性疲労症候群の診断の実際
慢性疲労症候群とは?

慢性疲労症候群は、「原因がわからない疲労感≒慢性疲労症候群」として診断される傾向にあります。

ある程度精査しても原因がわからない場合に、疲労感が中心であれば、とりあえず診断するのに便利な病名となってしまいます。

ですから、うつ病や双極性障害などの心の病気が背景に隠れている可能性もあるのです。

また心の病気だけでなく、長らく慢性疲労症候群として診断されていた方が、脳脊髄液減少症であることが判明したケースもあります。

このため慢性疲労症候群を治療していくためには、心身の病気についての経験が問われることになります。

慢性疲労症候群について詳しくは、慢性疲労症候群のページ(元住吉こころみクリニックHP)をご覧ください。

慢性疲労症候群に対するTMS治療方法と費用

慢性疲労症候群に対するTMS治療は、その原因や症状から総合的に判断していく必要があります。

現時点で、慢性疲労症候群に効果があるかは不明といわざるを得ません。

ですが、うつ症状と同じターゲットで疲労感が軽減する報告がなされており、少なくともうつ症状を伴う場合はTMS治療も選択肢となります。

うつ状態の場合、過度な疲労感や倦怠感は非定型症状を示唆することもあり、双極性障害にも注意が必要です。

慢性疲労症候群のTMS治療プラン

エビデンスが低いものの疲労感の軽減が報告されているのは、左背外側前頭前野(DLPFC)に対する高頻度刺激になります。

しかしながら双極性障害が背景に疑われる場合など、右低頻度刺激が治療選択肢になる場合もあります。

このように、うつ症状での治療ターゲットと同じであるために、少なくともうつ症状が認められる場合はTMSは治療選択肢となります。

  1. 左背外側前頭前野への高頻度刺激
  2. 右背外側前頭前野への低頻度刺激

このように慢性疲労症候群に対するエビデンスは低いため、基本的にはうつを伴う場合にTMS治療を検討していくべきです。

残念ながら、慢性疲労症候群に有効な治療プロトコールは、海外でも報告されていません。

当院でのTMS治療費

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  1. 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  2. 左高頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  3. 左高頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~
  4. 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  5. 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

慢性疲労症候群でのTMSのエビデンス

慢性疲労症候群でのTMSのエビデンス

論文について詳しくは、【非侵襲的脳刺激による倦怠感の治療】をご覧ください。

こちらの論文によれば、慢性疲労症候群をはじめとした疲労感にrTMSの効果があるかは、サンプルが少なすぎて不明と報告されています。

効果は期待できる?

うつ病のTMSでのターゲットとなる背外側前頭前野(DLPFC)は、倦怠感の調整に関係しているネットワークの重要な部分と考えられています。

このためこの領域をターゲットに、7人にDLPFC高頻度刺激(右利き6人は左側、左利き1人は右側)を行ったところ、30~40%程度の疲労感軽減が認められたと報告されています。

【慢性疲労症候群治療における高頻度rTMS:症例シリーズ】

また、もともとの倦怠感の重症度に関係なく、rTMS治療が倦怠感を改善できるという報告もなされています。 【ME患者の疲労感のベースラインでの重症度によってrTMSの効果は影響をうけるのか】

しかしながらいずれの研究もエビデンスレベルは非常に低く、これをもって慢性疲労症候群の治療効果があるとは決していえないでしょう。

慢性疲労症候群のTMS臨床研究のご紹介

2021年現在、国内では臨床研究の枠組みで、国際医療福祉大学附属市川病院のリハビリテーション科で臨床研究が行われています。

おそらく冒頭でご紹介した7人の連続症例報告の施設での論文ですので、DLPFCに対して10HzでrTMS(10秒刺激・50秒インターバルで25分間2500発)、こちらを1日に2回行っているのかと思います。

従来の高頻度rTMS治療よりも刺激時間とインターバルを長めにとったプロトコールになりますが、高頻度刺激でDLPFCの神経活動を増加させることで、治療効果を期待していきます。

シーターバースト法も脳皮質を刺激する点では同じですが、効果のメカニズムが高頻度rTMSとは異なる可能性があります。

慢性疲労にTMS治療は効果ある?

そして疲労そのものに対しては、TMS治療を行っていても治療実感は一定しないのが実情で、状態を正しく判断する必要があります。

そのような中で、独自のプロトコールなどで治療効果をうたっている医療機関もあります。

ですが、そのようなものがあれば世界中で研究と実践がなされているでしょうし、私たちも積極的に取り組みます。

論文で発表されている慢性疲労症候群に対するプロトコールは左rTMS高頻度刺激になりますが、iTBSの治療認可前なのでrTMSとなっただけであり、そのプロトコールが良い根拠はありません。

患者さんの費用負担も考えると、左iTBSから開始していくことが適切と考えており、実際に国立精神医療センター(NCNP)よりご紹介いただいた患者さま等で、明らかな治療効果を認めました。

しかしながら効果が認められなかった方もいらっしゃいますので、効果があるとは現時点では明言できません。

私たちも症例を通してデータ解析し、治療効果を検証しております。

うつ状態に伴う倦怠感の改善は期待できる

それではTMS治療が慢性疲労症候群に全く活用できないかというと、そうではありません。

慢性疲労症候群での治療ターゲットとして考えられているのは、DLPFCの刺激になります。

これは、うつ病での治療ターゲットと同じになります。

慢性疲労症候群は日常生活への影響が大きく、うつ症状を伴っているケースも少なくありません。

少なくともうつ症状を伴っている場合は、TMS治療によってうつ症状を改善し、倦怠感の改善も図っていける可能性があります。

慢性疲労症候群に対する薬物療法

慢性疲労症候群に対する薬物療法

慢性疲労症候群では、ビタミン剤や漢方薬などによる補助療、抗不安薬や抗うつ剤などの向精神薬による薬物療法が行われています。

あわせて、運動療法や生活習慣の改善、認知行動療法などの心理療法などを行っていきます。

このように慢性疲労症候群の治療は、現時点では確立されていないのです。

TMS治療は総合的に判断

TMS治療が選択肢となるのは、うつ症状が重なっているケースになります。

そのような場合、うつ症状の改善目的でTMS治療を行うのは治療意義もあり、エビデンスは極めて低いものの、疲労感に対する効果も期待はできます。

このように慢性疲労症候群に対してはTMS治療は効果が実証されていませんが、少なくともうつ症状が伴っている場合は治療効果が期待できるといえます。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療をご検討の方へ

慢性疲労症候群には、TMS治療が治療選択肢となる場合があります。

しかしながら効果が期待できるかは専門的な判断が必要となり、心の治療経験が必要となります。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

武蔵小杉こころみクリニック院長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医