ADHDとTMS治療
ADHDにTMS治療は、「ADHD特性の改善につながる可能性はハッキリしていない」です。
少なくとも現在わかっている方法では、海外の最新の方法でも明確な効果は期待しづらいといえます。
ですから、薬物療法もあわせて考えるべきになります。
ADHDでのTMS治療は、気持ちの安定に伴っての効果を期待して行っていきます。
特にお子さんについては、脳が未発達なため行うべきでないのは、国際的にも共通見解です。
ADHDとは?
ADHD(注意欠如多動性障害)とは、
- 不注意
- 衝動性
- 多動性
の3つを特徴とする病気になります。
発達障害のひとつに分類されていて、その背景には生まれ持っての何らかの脳の機能的異常があると考えられています。
近年ではADHDが多くの人に知られるようになり、過剰診断されている傾向がありますが、ADHDは幼少期からのエピソードの問診が非常に大切です。
ADHDの症状
小さいころからADHDの特性は目立っていて、むしろ大人になるにつれて学習し、症状自体は和らいでいきます。ですが成長するにつれて社会で求められる水準が高まり、まわりに適応することが難しくなってしまいます。
これらの3つの症状は、患者さんごとに表れ方が異なります。不注意や衝動性が残り、多動性は目立たなくなっていることが多いですが、足を頻繁に組みなおしたり、貧乏ゆすりがみられるといった形で残っていることも多いです。
症状の程度は人によって異なりますが、段取りがたてられなかったり、注意散漫でミスが多くなってしまったりすることで、学業や仕事に影響がでてしまいます。
こうしたことで自己肯定感が失われてしまうことも少なくなく、うつ状態などで苦しまれて医療機関に相談されることが多いです。
TMS治療は、こうしたうつ状態となっているときには治療適応となります。ADHDのお困りの症状をふまえて、TMS治療方法を計画していきます。
ADHDについて詳しくは、ADHDのページ(武蔵小杉こころみクリニックHP)をご覧ください。
ADHDでのTMS治療の現状
当院にも、ADHDでのTMS治療を希望されて受診される患者様が多いです。
たいていは、「ADHDと診断されてTMS治療を進められたけど、こちらの方が安いのでお願いしたい」というご相談です。
症状をお聞きし、TMS治療で期待できる効果に納得いただいた方は治療導入する場合もありますが、一般的な薬物療法をおすすめすることもあります。
ADHDはQEEG検査でわかる?
ADHDの診断には、幼少期からのエピソードの問診が大切です。
最近はQEEG検査という一般的でない検査だけで診断されているケースがありますが、適切ではないことが多いです。
QEEG検査は問診の参考程度にしかなりませんし、欧米でもTMS治療効果の評価には使われていないです。
こちらの検査で診断評価できるのであれば、すべてのADHD診療を行っている医療機関で導入されているはずです。
コンサータは登録医制度となっており、当法人にも3名の登録医がおりますが、非常に厳格な管理となっています。QEEG検査が効果的であるならば、コンサータを処方する患者様には必ずQEEG検査を行うこととなっているでしょう。
子供でもTMS治療は大丈夫?
ADHDのお子さんをもつご両親から相談いただくこともあります。
脳が未発達な子供にTMS治療を行うことはリスクが大きく、表面的な安全性が高いということはわかっていても、行うべきではないと断言できます。
脳のある領域の機能が変化することで、他の領域に影響する可能性もあるのです。
そして18歳未満に対するTMS治療は、精神神経学会が作成した適正使用指針にも認められていません。【日本精神神経学会HP】
大人ではADHDに効果がある?
大人のADHDに対するTMS治療についても、正しく理解いただいたうえで期待できる効果を検討してください。
ADHD特性そのものに対しては、お薬によって改善をしていくことが基本になります。
TMS治療とお薬の併用で効果が増強するといったエビデンスはなく、あくまで心が安定する目的でTMS治療が有効と考えられています。
都合が良いことだけ発信される
後述しますように、ADHD特有の刺激方法で有効性を示す論文は少なく、否定的な結果もあります。
効果があるという論文そのものが、都合が良い結果のみを公表されている可能性(出版バイアス)があります。
ですからADHD特性に効果があるとされる方法で治療を行うのは実験といってもよく、適切ではないと当院は考えています。
ADHDへの治療効果のうたい方をみれば、TMS医療機関としてのスタンスがお分かりいただけると思います。
ADHDに対するrTMS治療方法と費用
rTMS治療は、うつ症状を伴うADHDに対する治療効果に対して期待していくべきです。
その結果として、ADHD症状の軽減が認められる場合もあります。
ですが永続的な効果を期待することは難しく、ADHD症状が落ち着いたとしても一時的となる可能性を理解いただく必要があります。
ADHDのTMS治療プラン
このため、ADHDについてのTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。
- 左背外側前頭前野への高頻度刺激
- 右背外側前頭前野への低頻度刺激
基本的にはADHDに伴っている症状に従って、治療計画を立てていくことになります。
それぞれの刺激方法によって、臨床的な効果の違いがあります。それを踏まえて、効果が期待できるTMS治療を行っていきます。
ADHD特性に効果が期待できるプラン
ADHDなどの発達障害では、背外側前頭前野(DLPFC)領域を治療ターゲットとして少しずつ研究がなされています。
ADHDをはじめとした発達障害の患者さんの脳では、GABA受容体が減少して大脳皮質が興奮に傾いている(興奮抑制比が上昇)といわれています。
それを低頻度刺激によって抑制することを根拠に研究が進められています。
このため左低頻度刺激や、反対に右高頻度刺激での研究報告がわずかにありますが、極めて実験的な方法といわざるを得ません。
のちほどエビデンスのところでお伝えしますが、しっかりした研究報告もされておらずに効果が否定的な報告もあるためです。
当院でのTMS治療費
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)→現在3,300円
- 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)→現在6,600円
- 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)→現在9,900円
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
ADHDに対するTMSのエビデンス

論文について詳しくは、【ADHDの子供と成人における非侵襲的脳刺激:システマティックレビューとメタアナリシス】をご覧ください。
こちらの論文によれば、そもそも倫理的な問題などもあり研究自体が少なく、rTMSだけでなくtDCS(経頭蓋直流電気刺激法)もあわせて分析しています。
rTMS関連では、2019年2月までのすべての論文を検索しています。
これによれば、2つのRCT、1つの単盲検、1つの非盲検試験だけになりますので、すべてご紹介させていただきます。
ADHDに関するTMS治療の論文
TMS治療がADHDに有効とする医療機関では、右DLPFC高頻度刺激を行うことがあります。
ですが、13人の患者で不注意スコアが改善されたというものしか根拠がありません。【ADHDの不注意に対するrTMSのポジティブな効果:パイロットランダム化比較試験】
むしろネガティブな報告の方が多く、9人の成人ADHD患者に10Hzの右高頻度刺激を行っても、プラセボと有意差はありませんでした。【青年期および若年成人ADHDの治療におけるTMS:パイロット研究】
26名の成人ADHD患者にdTMSによる両側DLPFC高頻度刺激を行いましたが、有意な効果は認められませんでした。【大人のADHDに対する両側高頻度dTMSのランダム化比較試験:否定的な結果】
非盲検試験では、10人の子供に左DLPFC低頻度刺激を1週間行ったところ、教師からの不注意や家庭での衝動性や多動性といった症状の多少の軽減が認められたとされています。
エビデンスに基づくADHD治療
このようにTMS治療がADHD特性に対する効果は現在のところ支持されていません。
ADHDに対するTMS治療は倫理的な問題も大きく、研究レベルでもこの程度のサンプルしかありません。
そして患者数が少ない研究は、都合の良い結果になったものだけが発表される(出版バイアス)可能性もとても高いです。
これをもとに、右高頻度刺激や左低頻度刺激を行うことは実験的と思われます。
海外でも倫理的に問題視
冒頭でご紹介した論文のイントロダクションでも、以下のように触れています。

簡単に要約すると、「子供のADHDに対するTMSはわかっていないことだらけで、ターゲットでない部分に変な影響があるかもしれない。けれども非侵襲的脳刺激法は、いくつかの国の民間クリニックで提供されていたり、市販されていたりオンラインで入手出来てしまいます。」
これが日本だけでなく、海外での実情なのです。
ADHDに対する薬物療法
ADHDの治療としては、ADHD治療薬による症状の改善が基本になります。
ADHD治療薬としては、大きく3種類が発売されています。
- コンサータ
- ストラテラ
- インチュニブ
コンサータ | ストラテラ | インチュニブ | |
---|---|---|---|
即効性 | ++ | ― | + |
持続性 | ― | + | + |
覚醒度 | ↑ | → | ↓ |
コンサータは管理が厳しいお薬で、登録医制度がとられています。当法人では3名のコンサータ登録医が在籍しています。
これらのお薬の力を借りて、ADHD特有の症状の軽減を目指します。また、そのほかのストレスによる症状にあわせて、お薬でサポートしていきます。
治療の考え方
このようにお薬の力でサポートすることで、日常生活での不自由さを解消して自己肯定感の回復を大切にします。ある程度落ち着いてきたら、ミスをしない仕組みづくりを考えていきます。
ADHDという特性は悪い面ばかりでなく、衝動性は裏をかえせば行動力であったり、不注意は独創性であったりと、良い面もあります。障害ではなく特性として受け止めていけるようになっていくことが、ADHDの治療の一つの目標です。
TMS治療をご検討の方へ
ADHDでは、うつ症状の軽減のためにTMS治療が役に立ちます。
ADHDの症状自体へのポジティブな効果は、現時点では判明していません。
どうしても希望がみえるとすがりたくなり、またネガティブな情報からは目をそむけたくなってしまいます。
このように適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。
当院には12名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師2名のみ(2021年1月現在)が担当させていただきます。
TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。
TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。
執筆者紹介

大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医