小児および成人の注意欠陥/多動性障害(ADHD)における非侵襲的脳刺激:システマティックレビューとメタアナリシス

こちらの論文は、

のページに引用しています。

ADHD特性にTMS治療は効果不明

こちらの論文では、ADHDについての非侵襲的脳刺激研究を網羅的に調査して評価したものになります。

TMS治療については4件が含まれており、1つの論文のみが右DLPFC高頻度刺激で不注意が改善されたと報告していますが、それ以外はハッキリとした効果がしめせていませんでした。

こちらの論文でも、rTMSは欧米でも商業的に行われていますが批判的に評価されていると記載されており、少なくとも現在の治療プロトコールでは、不注意などのADHD特性の改善は期待しづらいといえます。

メタアナリシスでも報告が少ないことを見れば、ADHD特性に対する臨床的な効果は期待しづらいといわざるを得ません。

しっかりと効果が示せる可能性が高ければ、世界中の研究者が見逃すはずはありません。

ただADHD治療に対してTMS治療の可能性がないわけではなく、現在の治療ターゲットであるDLPFCでは、ADHD特性に対する効果が期待しにくいというだけです。

異なるターゲットでは治療効果が期待できるかもしれず、今後の研究成果が待たれます。

論文のご紹介

ADHDに対するTMS治療のメタアナリシスをご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

背景

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)または経頭蓋直流刺激(tDCS)は、認知機能や臨床症状の改善に関するいくつかのエビデンスがあることから、注意欠陥/多動性障害(ADHD)の覚せい剤投薬に代わる治療法となりうる。

しかし、確固たるエビデンスがないにもかかわらず、rTMSやtDCSはADHDにおいてすでに臨床的にも商業的にも提供されている。

本システマティックレビューおよびメタアナリシスは、ADHDにおけるrTMSおよびtDCSの研究を批判的に評価し、優れた研究および臨床実践に役立てることを目的とした。

方法

体系的検索(2019年2月まで)により、主に背外側前頭前野(DLPFC)を刺激する18件の研究(rTMS 4件、tDCS 14件;ADHDの小児および成人311人)を同定した。

注意、抑制および処理速度による認知的測定の3つのランダム効果メタアナリシスに、12件の陽極tDCS研究(ADHDの小児および成人232人)を含めた。

結果

rTMSおよびtDCSのレビューでは、一部の機能でポジティブな効果が見られたが、他の機能では見られず、臨床的な改善を示す証拠はほとんどなかった。

主に左または両側のDLPFCに1~5セッションの陽極tDCSを行ったメタアナリシスでは、注意力ではなく、抑制と処理速度に改善傾向が認められた。

限界

刺激パラメータ、患者の年齢および結果指標の不均一性により、知見の解釈が制限された。

結論

レビューおよびメタ解析では、主にDLPFCを対象とした1~5回のrTMSおよびtDCSが、ADHDの臨床的または認知的指標を改善するという限定的なエビデンスが示された。

これらの知見は、ADHDに対する代替の神経療法としてDLPFCに対してrTMSまたはtDCSを使用することをまだ支持していなかった。

より最適な部位と刺激パラメータを特定し、認知トレーニングと組み合わせた大規模な複数セッションの刺激研究により、より大きな効果が得られる可能性がある

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年4月3日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

TMS治療は怪しい?問題点と誤解を解説

体に負担を与えずに脳にアプローチする治療法として、近年注目を集めている「TMS治療法」。心の病気に対する、新たな治療効果が期待されています。 世界中でエビデンスが蓄積されつつあるTMS治療ですが、日本でも正式な適応が認め… 続きを読む TMS治療は怪しい?問題点と誤解を解説

投稿日:

当院のうつ病TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

治療成績 病名:うつ病 期間:2022年1月~2022年12月31日 症例数:117名(30回実施214名) 寛解率56% 反応率79%程度 2022年1月から、2022年12月末までに30回以上実施したうつ病・うつ状態… 続きを読む 当院のうつ病TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

投稿日:

当院の強迫性障害TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

治療成績 病名:強迫性障害 期間:2022年1月~2022年12月末 症例数:25名(データ:16名) 30%改善:50% 2022年1月から、2022年12月末まで1年間の全症例のうち、強迫性障害として急性期治療終了と… 続きを読む 当院の強迫性障害TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

投稿日:

人気記事

子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

「長い子育てを終えて、やっとひとりの時間ができる」 「子育て中はできなかったことを、たくさん楽しもう!」 そんな風に、子育てを終えた解放感を味わう方もいるでしょう。ですがその反面、強い喪失感や虚無感に苦しむ方も存在します… 続きを読む 子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

投稿日:

「燃え尽き症候群(バーンアウト)」とは?なりやすい人や治療法を解説

「燃え尽き症候群(もえつきしょうこうぐん)」とは、その名の通り、それまでの意欲や熱意がまるで燃え尽きたように消失してしまう状態のことです。 もともとは意欲があった人が、突然やる気を失う。いきなりの変化に「あんなに熱意があ… 続きを読む 「燃え尽き症候群(バーンアウト)」とは?なりやすい人や治療法を解説

投稿日:

精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

「車がないと会社に通勤できない」 「仕事で車を運転する必要がある」 「生活するうえで、車がないと困る」 日常生活の中で、車の運転が必須になっている方もいるでしょう。 それは、精神疾患の治療をしている患者さんも同じです。お… 続きを読む 精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

投稿日: