抗うつ剤の減薬とTMS治療

「抗うつ剤による副作用で困っている」

「抗うつ剤をやめると調子が悪くなってしまう」

「離脱症状がひどくてやめられない」

このような抗うつ剤をなかなか減薬できない場合に、TMS治療はひとつの選択肢となります。

TMS治療の効果が期待できるかは病状にもよるので、専門家と相談いただくことが大切です。

抗うつ剤がやめられない

かつて抗うつ剤は、副作用が比較的に多い三環系抗うつ薬が中心でした。

2000年代にはいって、比較的に副作用が少ない安全性の高い抗うつ剤が発売されるようになると、「うつは心の風邪」のキャッチコピーとともに広く処方されるようになりました。

抗うつ剤は心の領域だけでなく、月経前症候群などで婦人科領域、過敏性腸症候群などで消化器科領域、慢性疼痛などで整形外科領域といったように、幅広く処方されています。

「抗うつ剤」といわれると響きが重たいのですが、安定剤(抗不安薬)などを漫然と使うことに比べると安全性が高く、適切に使えば非常に有用なお薬です。

新しい抗うつ剤も種類がふえ、

  • SSRI:ジェイゾロフト・レクサプロ・パキシル・ルボックス/デプロメール
  • SNRI:サインバルタ・イフェクサー・トレドミン
  • NaSSA:リフレックス/レメロン
  • S-RIM:トリンテリックス

などが発売されています。

抗うつ剤の効果とデメリット

抗うつ剤がどのようにして効果が発揮されているのかはわかっていないことが多いですが、モノアミン仮説という考え方が効果を理解しやすいです。

抗うつ剤の効果とデメリット

抗うつ剤は安全性が高いお薬なのですが、デメリットもあります。

抗うつ剤のデメリットとして問題になるのが、

  • 副作用
  • 離脱症状

こちらの2つになります。

抗うつ剤で問題となる副作用

抗うつ剤の代表的な副作用をイラストにしました。

抗うつ剤には、お薬によって異なる副作用があります。

代表的なものとしては、

  • 体重増加(太る)
  • 眠気
  • 性機能障害

これらが挙げられます。

体重増加や眠気については、抗うつ剤の種類によっても変わります。

これらの副作用が目立つ場合には、お薬の変更なども行っていきます。

性機能障害は相談されることが少ないのですが、実は非常に多い副作用です。

新しく発売されたトリンテリックスは少ないといわれていますが、抗うつ剤では完全にはなくならないケースが多いです。

抗うつ剤の依存性と離脱症状

抗うつ剤のもうひとつの問題が、「離脱症状」です。

抗うつ剤は、服用を続けていても効果が弱くなることはありません。このため厳密には「依存」とはいいません。

しかしながら身体依存である離脱症状が強く現れることがあり、そのせいで減薬できないこともあります。

2つの要因

抗うつ剤をやめられない要因を考えていくにあたっては、

  • お薬の要因
  • 本人の要因

こちらの2つを考えていく必要があります。

お薬の要因

お薬による依存を考えていくには、3つのポイントがあります。

  • 身体依存
  • 精神依存
  • 耐性
身体依存

抗うつ剤の服用を続けていると、脳に何らかの変化をあたえて効果が発揮されます。

このように身体が抗うつ剤から慣れた状態が続くと、急にお薬が減らそうとすると離脱症状となって心身の不調をきたすことがあります。

抗うつ剤は離脱症状が強く出てしまうことが多いです。

お薬によっても

  • SSRI:パキシル
  • SNRI:サインバルタ・イフェクサー

は、離脱症状が比較的多いお薬になります。

精神依存

精神依存とは、「お薬がないと不安」といったように、精神的にお薬が頼りになってしまう状態のことです。

抗うつ剤は効果が表れてくるのに2~4週間ほどかけてジワジワという形ですので、精神依存につながりにくいお薬です。

少しずつ過敏さが薄れ、「だんだん気にならなくなってきた」といった表現をされることも多く、精神依存には繋がりにくいです。

耐性

耐性とは、お薬の効果が徐々に薄れてしまい、身体に慣れていくことです。

抗うつ剤には耐性は認められず、服用を続けていても効果が弱まってしまうものではありません。

このため効果が薄れてしまって、増量しなければならなくなるお薬ではありません。

抗うつ剤の離脱症状の特徴
抗うつ剤の離脱症状の特徴をイラストにしました。

抗うつ剤の離脱症状は、このように身体依存によるところが大きいです。

「依存」はこの3つの特徴がすべてもっているときに、「コントロールを失ってしまうこと」で依存症となります。

ですから厳密には、抗うつ剤は依存ではありません。

抗うつ剤の離脱症状としては、

  • 特有の症状:シャンピリ感・ピリッと電気が走る感覚
  • 精神症状:不眠・不安・イライラ・ソワソワ
  • 身体症状:倦怠感・めまい・頭痛・吐き気・耳鳴り

などが認められ、通常は減量中止後1~3日で認められ、2週間までのうちに落ち着きます。まれに1か月以上続いてしまう方が相談に来られます。

抗うつ剤の離脱症状については、抗うつ剤の離脱症状をお読みください。

抗うつ剤を減らせない本人の要因

どうしても離脱症状のせいにしてしまいがちですが、お薬を減らせない本人の要因も考えていくことが大切です。

様々な要因が考えられますが、具体的には以下のようなケースがあります。

  • 病状が本質的に良くなっていない
  • お薬を減らすことでの心理的な影響

一般的には2週間を超えて離脱症状が続くことは非常にまれです。

多くの場合、少しずつ減薬していけば、離脱症状を小さくして慣れていくことができます。

例えば1/4錠など、ごく少量減薬しても調子を崩してしまう場合は、本人の要因も考えていく必要があります。

病状が良くなっていない

抗うつ剤はうつ症状や不安症状に対して使われることが多いかと思います。

少しでも減薬すると調子を崩してしまう場合は、本質的に病状が良くなっていない可能性もあります。

不安の病気であれば、潜在的に不安が残っているのかもしれません。うつ病では、脳のバランスの乱れが整っていないかもしれません。

またうつ症状で困っていても、その背景に発達障害やパーソナリティ障害など、その他の要因が強ければ、抗うつ剤を減薬すると調子を崩してしまいます。

薬を減らすことでの心理的な影響

不安が強い方に多いのですが、薬を減らしたという事実だけで、心理的な不安が高まってしまうこともあります。

「病は気から」ではありませんが、そうした気分が症状を引き起こしてしまうこともあります。

抗うつ剤を減薬するスタンダードな方法とは?

まずは少しずつ、抗うつ剤の量を減らしていきます。その際に離脱症状が認められた場合は、

  • 慣れるまで耐える
  • 抗不安薬で症状を緩和する

といった方法を行っていきますが、どうしても改善がない場合はいったん戻すと、比較的すみやかに改善します。

失敗してもあせらず、タイミングもありますので、落ち着いたら減量ペースを落として再度トライしていきます。

できるだけ少ない量まで減らせたら、以下のような方法で断薬を目指します。

抗うつ剤を減薬するスタンダードな方法とは?

このような方法が難しい場合は、離脱症状の少ない抗うつ剤への置き換えも検討していきます。

  • トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン)

新しいお薬になりますが、離脱症状がマイルドといわれている抗うつ剤で、置き換えて減薬に成功したケースもあります。

TMS治療を活用した抗うつ剤の減薬

rTMS治療では、減薬目的とした治療は一般的ではありません。

ですがTMS治療の効果を活用することで、抗うつ剤の減薬につながる可能性があります。

  • うつ症状の軽減
  • 離脱症状の軽減
  • 心理面での効果

抗うつ剤を減量できない要因は個人差があります。これまでの経過と症状から要因を推測し、減薬にTMS治療が生かせるかを検討していきます。

うつ症状の軽減

TMS治療は、抗うつ剤とは別のメカニズムで抗うつ効果が期待できます。

左DLPFC(背外側前頭前野)をターゲットに、高頻度刺激が基本となります。

何とか日常生活を送れていても、うつ症状が残っていて社会生活に影響が残ってしまっている場合もあります。

そのような時にはTMS治療によってうつ症状の改善を目指し、状態を安定することで減薬しやすくなります。

うつ病とTMS治療

離脱症状の軽減

抗うつ剤の離脱症状について、TMS治療の効果を報告した論文は確認できませんでした。

ドパミン系の物質依存での離脱症状については、メタンフェタミン依存症(ヒロポンの商品名で知られている精神刺激薬)で報告がなされています。

現在ではまず処方されることがないお薬で、抗うつ剤の離脱症状とはメカニズムも異なります。

ですがこの論文では、左DLPFC高頻度刺激にて離脱症状や睡眠の質、不安やうつが改善したという報告がなされています。

【離脱症状をターゲットとした男性メタンフェタミン依存患者でのTMS】

心理面での効果

TMS治療では、心理的な側面から減薬につながっていくことがあります。

以下のような点があります。

  • 脳を刺激することでのプラセボ効果
  • お金をかけて治療しているという心理的なイメージ
  • こまめに通院することでの行動活性化

TMS治療にも、お薬と同じでプラセボ効果が期待できます。

シャム刺激という偽刺激を加えても、一定の方が改善をみとめます。

さらにお金をかけて新しい治療をおこなっていくことで、そのプラセボ効果は高まる可能性があります。

またTMS治療は最低でも週2~3回の通院が必要となりますので、行動活性化の治療効果もあります。

【大うつ病性障害の治療中での行動活性化療法】

抗うつ剤を併用するとTMS治療効果は高まる

抗うつ剤治療とTMS治療は、どちらも異なるメカニズムになります。

このため併用することで、効果が高まって治療成績が良くなることが報告されています。

うつ症状が残っている場合は、両方を併用することで状態を良くして、落ち着いてからゆっくりと減薬するのも一つの考え方になります。

TMS治療によって回復すると、再発率はお薬と比べても低いといわれています。

減薬は無理せずに行っていくことが一番です。

【治療抵抗性うつ病に対する片側および両側rTMS:20年にわたるランダム化比較試験のメタアナリシス】

当院のTMS治療プラン

抗うつ剤減薬目的でのTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。

  1. 左背外側前頭前野への高頻度刺激
  2. 右背外側前頭前野への低頻度刺激

うつ症状が残っているケースでは、左DLPFC高頻度刺激を行っていく価値があります。

不安症状が強かったり、イライラ感や焦燥感など気分の不安定さが目立つ場合は、右DLPFCへの低頻度刺激を考慮します。

当院でのTMS治療費

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  • 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  • 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  • 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療をご検討の方へ

抗うつ剤の離脱症状によって、なかなか減薬できずに悩まれている方が少なくありません。

その症状は本当に離脱症状かを検討したうえで、TMS治療をうまく活用することで減薬に取り組むことができる場合があります。

このためにはTMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了