双極性障害とTMS治療

双極性障害の症状をイラストでご紹介します。

双極性障害にTMS治療は効果があるかと問われれば、「現時点ではうつ病相におそらく効果があるだろう」という答えになります。

お薬や心理療法で効果が認められない場合には、うつ状態を抜け出すためにTMSは治療選択肢となります。

通常のうつ病に匹敵する効果があるとの報告もされていて、日本でも適応拡大を目指した臨床研究が行われています。

再発予防効果があるかは不明ですが、躁状態に対してはTMS治療は行うべきではないと考えられています。

ここでは、双極性障害に対するTMS治療の可能性について、お伝えしていきたいと思います。

双極性障害とは?

双極性障害とは?:イメージ写真

双極性障害は、うつ状態と躁(そう)状態が反復して起こる病気です。躁うつ病の方がなじみがある病名かもしれません。

うつ状態のときはうつ病と同様に暗く沈んだ気持ちになり、何もやる気が起きません。

反対に躁状態のときには気持ちが高まり、誰かれ構わず話しかけたり、普段より異様に活動的になって不眠で行動し続けたりという状態になります。

双極性障害のタイプ

双極性障害は病徴がはっきりとしている双極性障害Ⅰ型と、躁状態が軽症である双極性障害Ⅱ型があります。

双極Ⅱ型の場合、躁状態では「普段より少しテンションが高い」という程度となり、本人や周囲もあまり気付けないことも多いのです。

また、本人はうつ状態のほうが精神的につらいため、うつ病と誤認している、あるいは誤診されているケースもあります。

躁状態のときには、上記のように過活動になるほか、浪費が激しくなったり、根拠のない自信に満ち溢れたり、人の意見を聞き入れられなくなったりします。

こうした症状に心当たりがある場合は、うつ病ではなく双極性障害の可能性があるのです。

双極性障害の診断の難しさ

双極性障害は診断が難しい病気で、その理由をイラストにしています。

双極性障害は、わかり易く感じるかもしれませんが、実は見つけるのが非常に難しい病気です。

その診断にたどり着くのに年単位かかることも珍しくなく、様々な病気と誤解されていることが多いです。

その一方で、過剰診断もされやすい病気になります。

気分の波がある病気(bipolarity)に対して、今では双極性スペクトラム障害という考え方をします。

程度の違いはあれ、波がある気分の病気として考えていくのですが、その結果として過剰診断となっていることもあります。

そこまで病的ではない出来事を「軽躁」と判断されてしまったり、過去に目立った躁エピソードがないけれども、うつの典型的な状態でない場合に双極性障害と診断されていることもあります。

このように双極性障害は、見落とされることも、過剰診断されることも多い病気になります。

双極性障害の原因と経過

双極性障害になる原因ははっきりしていませんが、脳の機能的な特性が生まれ持ってベースにあり、ストレスなどが重なって発症すると考えられています。

双極性障害の患者さんは、うつ症状に悩まされて病院に受診されることが多いです。

そして双極性障害のうつ状態はお薬の選択肢の幅が小さく、なかなか良くならないことも少なくありません。

そして再発し慢性化し、気分の波で生活の予定がたてられなくなります。苦しみが深い病気で、自死のリスクも高い病気なのです。

双極性障害について詳しくは、双極性障害のページ(こころみ医学)をご覧ください。

双極性障害に対するTMS治療方法と費用

双極性障害に対するrTMS治療方法と費用:イメージ写真

rTMSは、双極性障害のうつ状態に対する治療効果が期待できます。

抗うつ効果についてはエビデンスが蓄積されつつありますが、抗躁効果や再発予防効果については定まっていません。

低いとは言われていますが躁転のリスクはあるので、TMS治療は双極性障害Ⅱ型がメインとなります。

双極性障害のTMS治療プラン

双極性障害でのTMS治療では、大きく2つの方法が考えられます。

  • 左背外側前頭前野への高頻度刺激
  • 右背外側前頭前野への低頻度刺激

TMS治療は躁転のリスクは少ないだろうといわれていますが、高頻度刺激の方が低頻度刺激よりも、躁転リスクは高いことは明らかです。

このため患者様の病歴をみながら、TMS治療のプロトコールを検討していく必要があります。

明らかな躁状態や混合状態などが認められていた双極性障害の方では、左高頻度刺激はリスクが高いと思われます。

しかしながら単極性のうつ状態であれば、左高頻度刺激の方がエビデンスが示されており、治療費としても抑えられます。

このため、病歴を総合的にみて判断していき、治療経過を見ながら相談していきます。

当院でのTMS治療費と症例

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  • 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  • 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  • 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

当院でのTMS症例(双極性障害)

また当法人での治療データを解析したところ、適応が認められているうつ病と双極性障害では同等の治療効果となり、論文として発表しております。

双極性・単極性うつ病に対するrTMS治療の実臨床後ろ向き研究  

双極性障害うつ状態に対するTMSのエビデンス

双極性障害のTMS治療でのエビデンスをご紹介します。

「2020年11月26日に国立京都国際会館で開催されたアドバンスド・レクチャーで、野田賀大が発表した講演内容」より

こちらの論文によれば、左DLPFC高頻度刺激のみ効果が示されています。

論文について詳しくは、【rTMSの双極性うつ病における有効性について:系統的レビューとメタ解析】をご覧ください。

症例が少ないために右低頻度刺激についてはエビデンスを示せていませんが、左高頻度刺激についてはエビデンスが示されています。

ですが右低頻度も効果はおそらくあり、躁転リスクがより少ないと考えられています。

その他の論文

さかのぼること2016年、メタアナリシスでrTMS治療が、急性双極性うつに対して安全で効果的な治療オプションであることが示されました。

非盲検ですので表面上になりますが、その有効性は単極性うつ病の患者さんと同程度とされています。

そしてNNTは6(6人の患者さんのうち1人が治療できる)と報告されています。
【急性双極性うつでのrTMSの有効性と安全性】

2017年に発表された二重盲検ランダム化比較試験では、deepTMSというより深部を刺激する方法がとられました。

43人の患者を比較し、偽刺激よりもオッズ比2.92と有意差をもって効果が示されました。
【ディープTMSによる双極性うつの治療】

2021年に発表された二重盲検ランダム化比較試験では、左DLPFCへのiTBSを調べたところ、残念ながら有効性を明確にできませんでした。

気分安定薬や抗躁薬を服用している37人の双極性うつ状態の方をランダムに割り当てましたが、治療効果に有意差がつかず、1名で軽躁状態が認められました。
【双極性うつ病患者に対するiTBS実刺激vs偽刺激の有効性】

なお抗うつ剤などでは躁転リスクが懸念されますが、TMS治療では躁転リスクは低いことが報告されています。
【気分障害でのTMS後の軽躁/躁スイッチ:システマティックレビューとメタアナリシス】

また症例数が少ないものの、認知機能に対しては悪影響は及ぼさず、言語流暢性、言語記憶、実行機能にプラスの可能性が示唆されています。
【双極性障害での認知機能に対するTMSの効果:システマティックレビュー】

正式適応にむけた研究

こういった経緯をふまえ、2020年3月、FDA(アメリカ食品医薬品局:Food and Drug Administration)はニューロスターのTMS機器を、双極性障害の画期的なデバイスと指定し、認可に向けて研究が進むことが予想されています。
【FDA 画期的なデバイスプログラム】

日本では、平成30年(2018年)に厚生労働省から『薬物療法に反応しない双極性うつ病への反復経頭蓋磁気刺激療法』として先進医療Bに認定されました。

このため研究目的もあり、特定の医療機関であれば患者負担額を大幅に低減して治療を受けることができるようになっていますが、現実的には要件が非常に厳しいです。
【国立精神・神経医療センターHP】

双極性障害に対する薬物療法

双極性障害に対する薬物療法:イメージ写真

一般に双極性障害の場合は、薬物治療が中心となります。

脳の機能的な異常があるので、お薬によってバランスをとっていく必要があるのです。

うつ状態や躁状態を改善し、気分の波を小さくすることで再発予防効果を期待していきます。

その中で心理療法などをおこなっていき、少しずつ気分の波との付き合い方を身に着けていきます。

うつ状態の治療選択肢の少なさ

気分安定薬を中心にして治療を行っていきますが、もっとも苦しいうつ状態に対する治療選択肢が少ないという現実があります。

現在日本で適応となっている双極性障害のうつ状態のお薬は、以下のようになっています。

  • リーマス(一般名:リチウム)
  • ラミクタール(一般名:ラモトリギン)
  • ビプレッソ(一般名:クエチアピン徐放剤)
  • セロクエル(一般名:クエチアピン)
  • ラツーダ(一般名:ルラシドン)

これに加えて、適応外でジプレキサ(一般名:オランザピン)やエビリファイ(一般名:アリピプラゾール)くらいしかありません。

うつの苦しみから抜けるために

双極性障害に対するTMS治療は、うつ症状を脱するための一つの選択肢になります。

これまでも双極性障害のうつ状態を抜け出せない場合に、抗うつ剤を併用するべきかについては議論がなされてきました。

双極性障害に抗うつ薬は効果があるのか

現時点でのTMS治療は、まさに抗うつ剤と同じような位置づけにあり、抗うつ剤よりは躁転のリスクは少ないだろうと考えられています。

また日ごろからお薬を継続していく必要があり、飲み忘れや副作用の問題から治療が安定しないことも少なくありません。

そういった場合に、TMS治療はうつ状態改善のための治療選択肢となります。

再発予防のために

双極性障害の再発予防としては、気分安定薬が基本となります。

気分安定薬とTMS治療を併用することは、TMSの効果を損ねることは少ないと考えられています。

またうつ病相を中心とする双極性障害であれば、TMSによる維持療法が再発予防につながる可能性もあります。

しかしながら、躁状態や再発予防に対する効果については現時点ではよくわかっておらず、お薬と併用して再発予防に努めることが望ましいです。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了