過食症(摂食障害)とTMS治療
過食症(摂食障害)にTMS治療は、効果が期待できても持続するかは不明と考えられています。
発作的な過食を和らげる可能性はありますが、TMS治療が本質的な治療とはならないことが多いです。
うつ状態となっている場合には、改善効果が期待できます。
このため、心理療法や薬物療法と組み合わせたTMS治療が望ましいと思われます。
ここでは過食症を中心に摂食障害についてみていき、お薬に頼らないTMS治療の可能性についてお伝えしていきます。
過食症(摂食障害)とは?
「食べること」が当たり前にできなくなってしまう摂食障害。
摂食障害には様々なタイプがありますが、大きくは2つの区別ができます。
- 食べ物への依存
- 体重や体型への過剰なとらわれ
摂食障害の2つのタイプ
明らかにやせていても、本人は太っていると思い込んでいることがあります。
いわゆるボディイメージのゆがみと呼ばれますが、このような症状があるのは「神経性タイプ」になり、心理療法も含めて専門的な治療が必要です。
とくに神経性食思不振症と呼ばれる拒食症は、命の危険もある病気になります。
一方で食べ物への依存が強いタイプは、「むちゃ食い障害(過食性障害)」と呼ばれます。
摂食障害の原因はさまざま
摂食障害にいたる原因は人それぞれで、自傷行為とも衝動を抑えられないとも、依存ともとらえることができます。
このため摂食障害では、心理的な治療も十分に行っていく必要があります。
TMS治療が期待できること
摂食障害に対しては、様々な治療選択肢を考えていく必要があります。
TMS治療は、むちゃ食い障害の方の過食衝動の抑制や、日々のストレスからうつ状態となってしまった際の治療に活用が期待できます
摂食障害について詳しくは、摂食障害のページ(こころみ医学)をご覧ください。
過食症(摂食障害)に対するTMS治療方法と費用
rTMS治療は、摂食障害の中でも「むちゃ食い障害」と呼ばれるタイプでは、治療に活用することが可能です。
TMS治療で期待できる効果としては、大きく2つあります。
- 情動が安定することでの食行動安定
- 一時的な過食衝動の抑制
過食症にうつ状態が重なってしまった場合は、うつの改善の目的でTMS治療での効果が期待できます。
またrTMS治療では、食べ物に限らずニコチンやお酒といった物質に対する渇望を抑制する効果がわかってきています。
このためTMS治療によって、一時的に過食衝動を抑えられる可能性があります。
過食症(摂食障害)のTMS治療プラン
過食症(摂食障害)でのTMS治療としては、基本的には以下の方法で行います。
- 左背外側前頭前野への高頻度刺激
背外側前頭前野(DLPFC)は、実行機能に関係しているといわれています。
高頻度刺激を行うことでDLPFCが活性化すると、衝動性を軽減してコントロールが強化できるようになるといわれています。
また報酬系と呼ばれているドパミンの働きが強められるため、炭水化物などの過食衝動が抑えられると考えられています。
うつ病の治療などで食欲が落ち着くことは経験的にありますが、ニコチン依存症と同様に、食物に対する渇望を抑える効果が期待されています。
過食症のTMS治療での注意点
過食症でrTMS治療を行っていくにあたっては、3つの点に注意が必要です。
- 双極性障害が背景にある可能性
- 効果が持続するかは不明
- BMI15未満では不適切
うつ状態は一般的に食欲が落ちてしまいますが、過食が認められるときは非定型症状(よくある症状とは異なる)と呼ばれます。
非定型症状は双極性スペクトラムの可能性もあり、気分の波には注意する必要があります。
なぜなら左高頻度刺激では、リスクが低いといわれていますが躁転リスクがあるためです。
また効果が持続するかは不明で、本質的な改善にならないことも多いことです。
体重減少がすすみBMI15未満の低栄養状態では、TMS治療はリスクが高く、入院治療をお願いしています。
このため経験ある精神科医が診察し、お薬の治療や心理療法などを組み合わせていく必要があります。
当院でのTMS治療費
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 6,930円(税込)※継続5,280円~
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
当院でのTMS症例(過食症)摂食障害でのTMSのエビデンス
論文について詳しくは、【摂食障害治療におけるrTMS:安全性と効果のレビュー】をご覧ください。
これによれば、渇望行動と摂食行動の両方が軽減されたという報告がある一方で、結果が研究によってばらつきがあり、そして研究自体があまりなされていないという結論となっています。
TMS治療が過食を抑えられるという論文
43人のBMI25以上の肥満患者にランダム化試験が2019年に発表され、左DLPFC高頻度刺激を8セッション行われました。これによれば、rTMS刺激を行ったほうでは2.75±2.37kgの体重減少(偽刺激:0.38±1.0kg)が認められ、総カロリーと炭水化物の摂取量が減少しました。
【肥満成人の体重と食物消費に対するrTMSの効果:ランダム化比較試験】
またTMSを含むニューロモジュレーション全般を解析したところ、背外側前頭前皮質(DLPFC)をターゲットにした興奮性のプロトコールは、依存症や過食行動のある人の渇望と消費の持続的な減少につながることが示されています。
【ニューロモジュレーションによる薬物依存症、肥満、過食の渇望と消費の軽減:その追跡効果のシステマティックレビューとメタアナリシス】
また過食症ではなく肥満に対してではありますが、高頻度deepTMSによって衝動性が低下し、抗肥満ホルモンと呼ばれるレプチンレベルが高まることが報告されています。
【肥満に対するdeepTMSを受けている患者の衝動性低下】
TMS治療が摂食障害に無効であるという論文
2016年に発表された二重盲検ランダム化比較試験では、47人の神経性過食症(BN)に左DLPFC高頻度刺激を10セッション行われました。過食エピソードやパージング(排出行動)については偽刺激と比較して有意差がなく、TMSの有効性が示されませんでした。
【過食症状に対するDLPFC高頻度rTMSの臨床効果の欠如:ランダム化二重盲検試験】
TMS治療で考えられる過食への効果
研究結果にばらつきもあるのですが、TMS治療は物質依存の患者さんに対する効果が少しずつわかってきています。
いわゆる「むちゃ食い障害」と呼ばれるような摂食障害では、摂食障害=食物依存症として考えた場合に、渇望に対して軽度、消費に対して中等度の効果が認められました。またセッション数や刺激数が増えるほど効果が増しました。
【薬物中毒、摂食障害、肥満者での渇望および消費に対するシングルセッションvsマルチセッションの非侵襲的脳刺激の効果:メタアナリシス】
「神経性」とよばれるような、ボディイメージの歪みがある摂食障害に対しては、現時点ではTMS治療の効果が期待できるかは不明です。
過食症(摂食障害)に対する薬物療法
過食症の治療は、心理療法が重要となることが多い治療です。
たとえば過食には、3つの側面があります。
- 依存症
- 衝動不良
- 自傷行為
患者さんによってもその背景は様々で、それにあわせてお薬や心理療法などを組み合わせていきます。
本質的な原因を知ることが重要
あくまで過食は表れている症状の一つにすぎません。
その本質には、様々な要因が複雑に絡み合っていることが多いです。
パーソナリティの側面、発達特性、双極性スペクトラムなどの精神疾患などを総合的にとらえて治療していきます。
TMS治療はあくまで治療手段のひとつ
TMS治療は、あくまで治療手段のひとつになります。
効果が期待できるのは、大きく2つの要素が強いケースと推測されます。
- うつ状態を伴うケース
- 依存症としての側面が強いケース
TMS治療をご検討の方へ
過食症のTMS治療では、効果が期待できるケースとそうでないケースがあります。
基本的にはうつ状態の改善を通して、情動の安定から摂食症状が落ち着くことを期待していきます。
過食に対しては一定の効果が認められる臨床実感はありますが、エビデンスは確立されていません。
またBMI15未満などの明らかに低栄養状態の場合は、TMS治療はリスクも高く、入院治療をお願いしています。
このように適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。
当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。
TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。
TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了