不安障害とTMS治療

不安障害にTMS治療は、「おそらく不安全般に効果があるだろう」といわれています。

うつに対するTMS治療の効果は確立されており、その治療の中で不安が良くなることは明らかです。

全般性不安障害(GAD)やPTSDについてはある程度のエビデンスが集まりつつありますが、パニック障害や恐怖症では研究報告が少ないです。

正式な適応となるほどのエビデンスはありませんが、効果は期待できるかもしれないと考えられています。

ここでは不安障害に対して、お薬に頼らないTMS治療の可能性についてお伝えしていきます。

不安障害とは?

大きく3つに不安を分けてご紹介します。

不安障害とは、不安が病的なレベルまで強くなることで支障をきたす病気全般をさしています。

大きく分けると、以下の3つに分けられます。

  • 急性不安
  • 慢性不安
  • トラウマ

急性不安

急性不安には、不安が発作的に認められるのが特徴です。

脳の機能的なバランスの乱れが原因となって生じるパニック障害、苦手とする状況によって生じる恐怖症性障害などがあります。

慢性不安

慢性不安には、漠然とした不安が認められるのが特徴です。

ささいなことが気になってしまうような全般性不安障害などがあります。

昔は急性不安と慢性不安をあわせて、不安神経症などと診断していたこともあります。

トラウマ

いわゆるトラウマといわれているような、消化しきれないままに抑圧してしまっているストレスの傷(心的外傷)です。

フラッシュバックなどに襲われるPTSDなどがあります。

このように不安障害には様々な特徴があり、それによっても治療方法が異なります。ここでは不安障害に対するTMS治療の効果をお伝えしていきますが、皆さんがイメージされる不安に近い全般性不安障害(慢性不安)についてお伝えしていきます。

不安障害について詳しくは、全般性不安障害のページ(こころみ医学)をご覧ください。

全般性不安障害に対するrTMS治療方法と費用

全般性不安障害に対するTMS治療の3つの治療効果をご紹介します。

rTMSは、不安障害に対する治療効果が期待できます。その効果には、3つの方向性があります。

  • 気分を改善して不安軽減
  • 睡眠の改善に伴う不安軽減
  • 不安自体の軽減

不安障害のTMS治療プラン

このため不安障害についてのTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。

  • 左背外側前頭前野への高頻度刺激
  • 右背外側前頭前野への低頻度刺激

左への高頻度刺激はうつ症状で第一選択で行われる方法で、うつ症状が目立つ方は左高頻度刺激からスタートすることが多いです。

うつ症状の改善に合わせて、不安も改善することはよく経験します。

しかしながら不安症状とうつ症状が伴う場合は、双極性障害が隠れていることが少なくありません。慎重に評価していくことが必要です。

不安自体に対しては、右低頻度刺激の方がエビデンスがあります。

しかしながら低頻度刺激(1Hz)は、少なくとも15分900発の刺激で反応が期待できるため、時間がかかるため金銭的な負担も大きくなります。

このように病歴と治療経過をみながら、総合的に判断して治療をすすめていきます。経過によっては刺激方法を変更・工夫していきます。

また、抗不安薬の減薬目的でTMS治療を活用できる場合もあります。詳しくは、以下をご覧ください。

抗不安薬の減薬とTMS治療

当院でのTMS治療費と症例

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  • 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  • 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  • 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

当院でのTMS症例(不安障害)

不安障害でのTMSのエビデンス

不安障害のTMS治療のエビデンスが高い論文をご紹介します。

※「2020年11月26日に国立京都国際会館で開催されたアドバンスド・レクチャーで、野田賀大が発表した講演内容」より改変

こちらの論文によれば、左DLPFC高頻度刺激と右DLPFC低頻度刺激での重症度の軽減が示されています。

論文について詳しくは、【不安障害治療における非侵襲的脳刺激の治療効果の系統的レビュー】をご覧ください。

2017年12月までにデータベースに登録された文献をもとに調べると、4つの全般性不安障害(GAD)に関する論文があります。

そのうち二重盲検ランダム化比較試験は2つあり、オープンラベルの研究が2つありました。

その結果をみると、全体的な効果量は-2.06(95%CI:-2.64、-1.48)となっており、TMS治療の有効性がしめされています。

うつ病に併存する不安障害に有効

うつに併存する不安のTMS治療についてご紹介します。

うつ病には不安障害が合併することがありますが、欧州ではTMS治療が認証(CEマーク認証)されています。

うつ病だけの96人と不安障害を合併するうつ病の172人において、どちらも差がなくTMS治療がうつ病を寛解させています。

不安障害合併群では39.5%の治療反応、23.2%の寛解が認められました。
【不安障害を合併するうつ病治療でのrTMSの効果】

その他の論文

2014年のAPA(アメリカ精神医学会)で発表されたRCTでは、右低頻度刺激(rMT90%)を30セッションの条件で行いました。

アクティブ刺激では7/9の反応(77.8%)3/9の寛解(33.3%)、一方でシャム刺激(偽刺激)では2/10の反応(20%)1/10の寛解(10%)となりました。

3か月後のフォローアップでは、アクティブ刺激のみ寛解は6/9(66.7%)と持続しました。

【全般性不安障害におけるrTMS:パイロットランダム化二重盲検比較試験】

2022年に発表された全般性不安障害に対するメタアナリシスでは、限られたバラバラの研究ではありますが、確かな治療効果が示されています。
【全般性不安障害に対するrTMS:システマティックレビューとメタアナリシス】

エビデンスに基づく不安治療

このように全般性不安障害に対してrTMSは、治療効果は大きく、またその効果は持続することが示唆されています。

おおよそDLPFCに対する右低頻度刺激が有効とされていますが、最適なプロトコールなどはまだ不明であり、これからの研究が待たれています。
※右20Hzの高頻度刺激110%rMTの刺激によるRCTで好成績が報告されています。

【全般性不安障害の治療での右DLPFCのrTMS:ランダム化二重盲検比較試験】

不安障害での薬物療法

全般性不安障害の治療としては、抗うつ剤を主とした薬物治療が基本になります。それによって不安のコントロールを目指します。

しかしながら全般性不安障害は、お薬の効果が不十分なことも少なくありません。

またお薬に対して抵抗が強かったり、副作用に対して過敏になってしまう方も多く、薬をなかなか継続できないことも多いです。そういった意味も含めて、およそ50%の方が初めに選んだお薬に反応しないとも報告されています。

治療の考え

不安の悪循環を断ち切るために、TMS治療は一つの選択肢となります。

不安症状がコントロールできるようになってくると、少しずつ認知の偏りが修正できるようになっていきます。

日常生活での出来事から、少しずつ適応的な思考に戻していくことができます。

不安はコントロールできるようにしていき、不安が不安を呼ぶ悪循環を断ち切ることが大切です。

お薬に対する反応性が悪かったり、副作用でなかなかお薬の服用ができない場合には、TMS治療は不安の悪循環を断ち切る治療手段となります。

TMS治療の効果のあらわれ方は、

  • 不安の重症度
  • 不安の続いていた期間

によっても異なります。集中的にTMS治療を行えば、2週間のうちに不安が軽減される方が多いです。

不安が生じる脳のメカニズム

私たちの感情に大きく関係しているのが、大脳辺縁系という部分です。

普段は大脳辺縁系をコントロールすることによって、感情や衝動のバランスをとり、行動を調整しています。

扁桃体の過活動

扁桃体の場所をイラストであらわしました。

しかしながら全般性不安障害(GAD)などの不安障害で苦しんでいる方の脳では、大脳辺縁系にある扁桃体の活動が亢進しているといわれています。

扁桃体は、私たちが危機的な状況にあるときに、感情を処理するために重要な働きをしています。恐怖を感じて逃げたり、それに対して向かっていく行動に深くかかわっています。

この扁桃体が過活動となっていると、過度な心配をしてしまう不安障害の状態になると考えられています。

TMS治療は、脳内のニューロンを正常レベルでの活動に戻すことで、全般性不安障害の症状を緩和することにつながるといわれています。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表

不安が強い場合には物事の考え方を変えることは難しく、お薬やTMS治療などによって不安の連鎖を断ち切ることが必要です。

不安は様々な要因で認められる症状にすぎず、適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる心の治療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

TMSは治療選択肢のひとつとして、患者さんの立場に立ってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

大澤 亮太

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了