小児および青年の大うつ病性障害に対する抗うつ薬の有効性と忍容性の比較:ネットワークメタアナリシス

こちらの論文は、

のページに引用しています。

小児はフルオキセチンが良い?

この論文は、ランセットに掲載された非常に注目された論文になります。

お子さんに対して抗うつ剤を使うべきかについては、専門家によっても意見がわかれていました。

子供のうつ病は、その背景に思春期特有の心の動きが重なっていたり、言葉にできない心因性の反応が隠れていることもあります。

また若くしてうつ状態となることは、双極性障害の可能性を念頭に置かなければならない所見の一つになります。

そしてお子さんに抗うつ剤を使うと、賦活症候群といって軽躁状態が誘発されたり、落ち着かなくなってしまうこともあります。

ですから子供に抗うつ剤を使うべきかどうかについては、専門家によっても意見がわかれていました。

こちらの論文では、

  • トリプタノール(一般名:アミトリプチリン)
  • 未発売(一般名:シタロプラム)
  • アナフラニール(一般名:クロミプラミン)
  • 未発売(一般名:デシプラミン)
  • サインバルタ(一般名:デュロキセチン)
  • レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
  • 未発売(一般名:フルオキセチン)
  • トフラニール(一般名:イミプラミン)
  • リフレックス/レメロン(一般名:ミルタザピン)
  • 未発売(一般名:ナファゾドン)
  • ノリトレン(一般名:ノリトリプチリン)
  • パキシル(一般名:パロキセチン)
  • ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
  • イフェクサー(一般名:ベンラファキシン)

これらのお薬を、ネットワークメタアナリシスによって効果と忍容性を比較しています。

その結果として、フルオキセチンのみが有効性において有意差を認めています。

他の抗うつ剤については、はっきりした有効性をしめせませんでした。

忍容性においてもフルオキセチンが優れているため、小児に抗うつ剤を使う場合はフルオキセチンが良いという結論となっています。

日本では未発売でありますが、フルオキセチンは海外では1988年から発売され、海外ではプロザックという名称で広く処方されている抗うつ剤(SSRI)になります。

小児に対する抗うつ剤については、必要性を吟味して検討していく必要があります。

論文のご紹介

小児および青年期の抗うつ剤の治療効果と忍容性についてのランセットに掲載された有名な論文をご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

背景

大うつ病性障害は、小児・青年期に最も多くみられる精神疾患の一つである。

しかし、この集団に薬物療法を行うかどうか、また、どの薬剤を選択すべきかについては、いまだに論争の的となっている。

そこで我々は、若年者の大うつ病性障害に対する抗うつ薬とプラセボを比較し、順位付けすることを目的とした。

方法

関連する試験の直接的および間接的なエビデンスを特定するため、ネットワークメタアナリシスを行った。

PubMed、Cochrane Library、Web of Science、Embase、CINAHL、PsycINFO、LiLACS、規制当局のウェブサイトおよび国際登録簿を検索し、2015年5月31日までの、小児および青年の大うつ病性障害の急性期治療を対象とした発表済みおよび未発表の二重盲検ランダム化対照試験を探した。

Amitriptyline、citalopram、clomipramine、desipramine、duloxetine、escitalopram、fluoxetine、imipramine、mirtazapine、nefazodone、nortriptyline、paroxetine、sertralineおよびvenlafaxineの試験を対象とした。

治療抵抗性うつ病の患者を対象とした試験、治療期間が4週間未満の試験、全体のサンプルサイズが10名未満の試験は除外した。

所定のデータ抽出シートを用いて発表された報告書から関連情報を抽出し、Cochrane risk of bias toolを用いてバイアスのリスクを評価した。

主要評価項目は、有効性(抑うつ症状の変化)と忍容性(有害事象による中止)とした。

ランダム効果モデルを用いてペアワイズメタアナリシスを行った後、ベイジアンフレームワークでランダム効果ネットワークメタアナリシスを行った。

各ネットワーク推定値に寄与するエビデンスの質を、GRADEフレームワークを用いて評価した。本研究はPROSPEROに登録されており、番号はCRD42015016023である。

調査結果

5260人の参加者と14の抗うつ薬治療を含む34の試験を適格とした。

ほとんどの比較試験でエビデンスの質は非常に低いと評価された。

有効性については、fluoxetineのみがプラセボと比較して統計学的に有意に有効であった(標準化平均差:-0.51、95%信頼区間[CrI]:-0.99〜-0.03)。

忍容性についても、fluoxetineはduloxetine(オッズ比[OR]:0.31、95%CrI:0.13~0.95)およびimipramine(0.23、0.04~0.78)よりも優れていた。

Imipramine、venlafaxineおよびduloxetineを投与された患者は、プラセボを投与された患者に比べて、有害事象による中止が多かった(それぞれ、5.49、1.96~20.86;3.19、1.01~18.70;2.80、1.20~9.42)。

異質性については、全体のI(2)値は、有効性で33.21%、忍容性で0%であった。

解釈

大うつ病性障害の急性期治療における抗うつ薬のリスク・ベネフィット・プロファイルを考慮すると、これらの薬剤は小児や青年に対して明確な利点を提供していないように思われる。

薬物療法が適応となる場合に検討すべき最良の選択肢は、おそらくfluoxetineであろう。

資金提供

中国国家基礎研究プログラム(973プログラム)。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年6月5日

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