新型コロナ後遺症とは?TMS治療の可能性
最近では、新型コロナウイルス感染症の後遺症として、「ブレインフォグ」や「慢性疲労症候群」が注目されています。
オミクロン株流行をうけて感染者数が急激に増加し、それに伴い後遺症に悩まれる方が増えてきました。
コロナ後遺症の症状は様々で、治療法も手探りの状況です。
ひとつの治療選択肢として、rTMS療法(反復経頭蓋磁気刺激療法)の可能性が注目されています。
そのような中で、新型コロナウイルス後遺症に対する診療ガイドラインが厚労省から公表されています。
また当院ではコロナ後遺症でうつ症状を伴う患者様に対して、料金をいただかずに治療を実施し、その治療効果を検証した症例報告を行い、海外専門誌に掲載されました。
コロナ後遺症関連の認知機能低下治療におけるTMS治療の効果についての症例報告
とはいってもエビデンスとしては低く、コロナ後遺症にTMSが有効と結論づけることはできません。
ここではコロナ後遺症についてお伝えし、ガイドラインや当院の症例報告も踏まえまして、TMS治療の可能性をお伝えしていきます。
現在当院では、コロナ後遺症に対するTMS治療のRCT研究を実施しています。エントリー基準に該当する方は、ご参加いただくことが可能です。
新型コロナ後遺症とは?
新型コロナウイルス感染は、ウイルス感染の一つではありますが、その後遺症の多さが注目されています。
多くの方が時間経過の中で薄れていきますが、なかには半年~1年以上も症状が残ってしまう方もいらっしゃいます。
このような新型コロナ後遺症ですが、ロングコビット(long COVID)などとも呼ばれています。
その病態はひとつではなく、様々な病態が関係しているといわれています。ですから症状も個人差があり、心身様々な症状となります。
コロナ後遺症では脳の構造変化の報告あり
コロナ後遺症の病態については、まだまだわかっていないことばかりです。
イギリスのUKバイオバンクでは、ボランティア50万人の遺伝子情報や健康データが登録されていますが、コロナ後遺症の症状の方にMRIで分析した研究結果が報告されて注目をあびました。
こちらによれば、以下のような構造変化が報告されました。
- 眼窩前頭皮質と海馬傍回での灰白質の厚さ・組織のコントラストの大幅な減少
- 一次嗅皮質に機能接続領域の組織損傷マーカーの大きな変化
- 全体的な脳サイズが大幅に減少
論文について詳しくは、【新型コロナウイルスは脳の構造変化に関連:UKバイオバンク】をご覧ください。
何らかの脳の構造変化が認められるということは、ターゲットや方法を工夫すれば、rTMS療法による改善の可能性も期待できると思われます。
人によって様々な原因と病態
コロナ後遺症は解明されていないことばかりで、その病態も様々と考えられています。
コロナ後遺症だと思っていたら、実は他の病気になっていたといったこともありますし、メンタル面での影響が大きな場合もあります。
このためコロナ後遺症には、心と体の両面からのアプローチが必要となります。
コロナ後遺症で考えられる病態としては、以下のような病態が考えられます。
- 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)
- 感染による状態(脳血管疾患・低酸素症・投薬の副作用)
- 感染後の休止期脱毛症
- 精神疾患(うつ病・ストレス性疾患)
- 肺機能障害(肺線維症・器質化肺炎といった間質性肺炎)
- 睡眠時無呼吸症候群
- 何らかの直接的なウイルスの影響
よくある症状
それではコロナ後遺症によくある症状について、海外での研究をご紹介します。
47,910人の患者さんを含む15の研究を合わせて解析したものになります。
【COVID19の50以上の長期的影響:システマティックレビューとメタアナリシス】
よくある後遺症を7つ挙げると、以下のようになります。
- 倦怠感:58%(95%CI 42–73)
- 頭痛:44%(95%CI 13–78)
- 注意障害:27%(95%CI 19–36)
- 脱毛:25%(95%CI 17–34))
- 呼吸困難:24%(95%CI 14–36)
- 味覚消失:23%(95%CI 14–33)
- 無嗅覚症:21%(95%CI 12–32)
なんらかの2週間を超える症状が認められた方は、実に80%にも上ると報告されています。
その他にも、
- 肺疾患(咳・胸部不快感・肺線維症・SAS)
- 心疾患(不整脈・心筋炎)
- 精神疾患(うつ病・不安障害・強迫性障害・認知症)
などが認められています。とくに脱毛については、女性に多いと報告されていました。
More than 50 long-term effects of COVID-19: a systematic review and meta-analysisの図2より引用
日本での追跡調査
入院患者さん525名のコロナ感染後の後遺症の経過を追跡調査した研究をご紹介します。
こちらの研究をみても、半年以上たっても何らかの後遺症が続いている方は少なくありません。
当然ではありますが、何らかの後遺症があると生活の支障が大きくなり、不安や抑うつ、睡眠障害を悪化させることが報告されています。
デルタ株以前とオミクロン株でのコロナ後遺症の違い
デルタ株以前とオミクロン株では、明らかに症状も変化して、重症化リスクも低くなっています。
そのような中で、コロナ後遺症の発症率も変わってきていることが統計として報告もされています。
Lancetに掲載されたイギリスでのアプリに登録された自己報告データによると、4週間以上の症状がみられる割合は以下のようになりました。
- デルタ株:10.8%(4,469/41.361)
- オミクロン株:4.5%(2,501/56,003人)
このようにオミクロン株は明らかに後遺症の割合が減少はしていて、ウイルスの特性として後遺症になる確率が少なくなっていることが報告されています。
【SARS-CoV-2のデルタ変異株とオミクロン変異株に関連したロングCOVIDのリスク】
コロナ後遺症で相談の多い症状
東京都福祉保健局のコロナ後遺症リーフレットから、コロナ後遺症での相談状況がまとまっています。
- 女性が59%と少し多い
- 40代以下が63%で全年代の多い
- 半年以内に相談が多い
- 65%が仕事に影響
となっています。そして症状として多いのが、
- 嗅覚障害:32%
- 倦怠感:27%
- 味覚障害:25%
- 発熱・微熱:18%
- 呼吸困難感:15%
- 咳:14%
このようになっています。
コロナウイルス感染に特に多いといわれている嗅覚・味覚異常は、長く続くと心配になってしまうことが多いのかと思います。
身体だけでなく心も
身体的な要因が低いとなると、精神的な要因が大きくなります。
精神状態をご自身で判断することは難しい場合も多く、どうぞ専門家にご相談ください。
コロナ感染症は、これまでのウイルス感染症にはないストレスがあったかと思います。
- 重症化すると死に至るかもしれない不安
- 感染したことでの周囲への影響
- 半月以上の社会生活を離れざるを得ないストレス
など、緊急事態の中でのコロナ感染は、特殊なストレス下にあったかと思います。
先ほどの海外論文のうち、精神症状に関係するものの割合をみていくと以下のようになります。
- 不安:13%(95%CI 3–26)
- うつ:12%(95%CI 3–23)
- 睡眠障害:11%(95%CI 3–24)
- 精神病:6%(95%CI 6–6)
- 気分障害:2%(95%CI 2–2)
- 不快気分:2%(95%CI 1–3)
- 強迫性障害:2%(95%CI 0–8)
- PTSD:1%(95%CI 0–2)
この中には、コロナウイルスによる直接的な影響だけでなく、
- もともとの精神疾患の悪化
- ストレスが重なったことでの発症
も含まれるでしょう。
慢性疲労症候群(倦怠感)やブレインフォグ(注意障害)といった形でご相談を受けると、このような精神症状が認められることも多いです。
それぞれの状態によって対応も異なるため、専門家に相談いただくことが大切です。
コロナ後遺症の治療
コロナ後遺症については、その原因が様々ですので画一的な治療がありません。
心身の両面から要因を検討して、治療を行っていく必要があります。
それぞれの症状に合わせて、まずは身体的な原因を検査することからはじめます。
身体的な異常がすべて否定されると、慢性疲労症候群や精神疾患を考えていくことになります。
ですから、まずは身体の症状からお伝えしていきます。
呼吸器や循環器系の症状
よくある症状として、息苦しさや咳、動悸や胸痛などがあります。
コロナ感染では肺炎の評価は必ず行っているかと思いますが、改善後も症状が続く場合は、改めて精査が必要となります。
中等度以上では半数以上で、CTでの異常が残ってしまうこともあり、なかなか評価が難しいところです。
肺炎だけでなく、虚血性心疾患など何らかの心臓にダメージをきたすという報告もあり、心疾患による心不全も鑑別していく必要があります。
呼吸状態の評価は呼吸器専門医に、心臓の状態は循環器専門医に相談することが望ましいです。
また重症度が高いほど、筋力低下や息苦しさが強く、肺機能低下が長引きやすいといわれています。
特に肺拡散能が低下しやすく、微細な器質的影響が残ってしまっている可能性もあります。
嗅覚や味覚症状
嗅覚障害は、気導性嗅覚障害(においが嗅神経まだ到達しない)、嗅神経性嗅覚障害(嗅神経がダメージ)、中枢性嗅覚障害(臭球よりも脳側のダメージ)に分けられます。
嗅覚がなくなる場合は、ほとんどが気導性嗅覚障害で、1か月以内に改善することがほとんどです。
一方で長く続く場合は嗅神経がダメージを受けている嗅神経性嗅覚障害で、多くの場合が異嗅症となります。
感染後嗅覚障害として、他の感染症でも認められており、漢方薬の当帰芍薬散や嗅覚刺激法などで対症的な治療が行われています。
味覚障害に関しては、様々な要因が複合的に関係しているといわれています。
味覚検査は正常だけれども味覚障害を訴える方も多く、風味障害が多いと考えられています。
口腔内乾燥や味細胞や神経の異常、亜鉛欠乏のほか、心理的な影響、嗅覚異常の影響などが考えられます。
いずれにしても耳鼻咽喉科で相談しながら、少しずつ改善するのを待つ形になります。
精神や神経系の症状
最も多い症状が、倦怠感と疲れやすさになります。
症状の発生する頻度は重症度関係ないという報告もあり、軽症であっても認められることがあります。
またブレインフォグと呼ばれる「頭がぼーっとする」ような症状、実行機能や集中力低下などが中枢神経系の症状として特徴的といわれています。
中枢・抹消神経系のダメージと心理的な影響、その両方が関係していると考えられています。
その理由として、
- グリア細胞が長時間の免疫反応で障害
- 血液脳関門(BBB)の機能低下と血管透過性亢進
- 激しい炎症による凝固脳亢進に伴う微細な脳血管障害
などが考えられています。
また痛みやしびれなどが身体的にも心理的にも生じることもあります。
うつや不安といった症状も目立つ場合は、抗うつ剤が使われることもあり、フルボキサミンの抗炎症作用などが注目されています。
長期間の入院の場合は、廃用性の筋力低下など様々な要因が関係してきます。
メンタル面でのサポートを受けつつも、神経症状などが認められた場合は身体的な精査が必要になります。
コロナ後遺症に対するTMS治療
コロナ後遺症に対しては、
- ブレインフォグ
- 慢性疲労症候群
といった形で、rTMS療法が治療選択肢として検討されることがあります。
コロナ後遺症にTMS治療が効果的かどうかは、ほとんど知見がないのが実情です。
厚生労働省の発表したガイドラインの中でも、「有効な治療についてはエビデンスに乏しく…」といった形で、記載されていません。
間違いなくTMS治療の効果が期待できるのは、「うつ症状を伴う場合」になります。
残念ながら、慢性疲労に対しては私たちの治療解析でも大きな効果は示せす、TMS治療のエビデンスに乏しいのが現状です。
しかしながら「ブレインフォグ」と呼ばれる認知機能低下は私たちの治療解析では大きく改善が認められました。
うつ症状を伴わない場合の改善については、統計的に十分な症例が集まっていませんが、TMS治療のメカニズムを考えれば効果は期待できます。
当院ではこれらの背景を十分に理解いただいたうえで、治療を希望される患者様のみ、同意のもとでTMS治療をおこなっています。
現時点でのコロナ後遺症に対するTMS治療の位置づけ
私たちも多くの治療を行ってきましたが、やはり治療効果は個人差があります。
そもそもコロナ後遺症が、もともとの素因も含めて様々な病態が合わさっているので、効果にも当然個人差があるのかもしれません。
このためTMS治療は、すでに適応のあるうつ症状が認められている場合には治療選択肢として推奨されますが、うつ症状を伴わない場合は、慎重に検討する必要があります。
もちろんコロナ感染後に倦怠感が残ってしまう場合は、ストレスも大きくうつ症状を呈している方も多いと思われます。
私たちもこれまでブレインフォグや慢性疲労症候群に対して、TMS治療を行っている方も少なくありません。
エビデンスに乏しいですが私たちの臨床実感を踏まえて、患者様にとってTMS治療が適切かどうかのご相談をさせていただくことができます。
コロナ後遺症に対する治療効果を検証するため、東京横浜TMSクリニックと新宿・代々木こころのラボクリニックで協力し、コロナ後遺症TMS治療探索プロジェクトを実施し、治療結果を解析して論文化しています。
コロナ後遺症関連の認知機能低下治療におけるTMS治療の効果についての症例報告
現時点でのコロナ後遺症に対するTMS治療の位置づけ
当院ではコロナ後遺症に対するrTMS療法の効果を科学的に検証するために、臨床研究を進めております。
2023年9月頃より、条件を満たした患者様に対して、臨床研究をすすめていくことになりました。
そちらの解析結果を踏まえて、当院での特殊プロトコールでの治療を正式に開始したいと考えております。
現在は、従来のうつ病・うつ状態に対するrTMS療法と同じ方法で実施させていただきます。
こちらの方法でも「うつ症状」はもちろんのこと、「ブレインフォグ」とよばれる認知機能低下にも治療効果の実感は得られています。
治療費も含めて考えますと、まずは左高頻度刺激を検討していくことが多く、治療経過を見ながら刺激方法を相談していきます。
当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。
- 左高頻度刺激:10分枠 6,930円(税込)※継続 5,280円~
- 右低頻度刺激:20分枠 13,200円(税込)※継続 9,900円~
- 右低頻度刺激:30分枠 15,840円(税込)※継続 12,320円~
治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。
当院での新型コロナウイルス後遺症治療
当法人では、新型コロナ後遺症のガイドラインを踏まえて、新しい情報を収集しながらコロナ後遺症治療を行っています。
当法人では、神奈川県に4つ、東京都に3つのクリニックがあります。
- 上野御徒町こころみクリニック:「血液強みの総合内科」内科・血液内科・糖尿病内科
- 田町三田こころみクリニック:「総合的な心の医療の充実」心療内科・精神科クリニック
- 東京横浜TMSクリニックみなと東京院:「磁気刺激という新たな治療選択肢を」TMS治療専門クリニック
- 元住吉駅前こころみクリニック:「心と体をトータルでサポート」内科・小児科・耳鼻咽喉科・婦人科・発熱外来の総合クリニック
- 元住吉こころみクリニック:「総合的な心の医療の充実」心療内科・精神科クリニック
- 武蔵小杉こころみクリニック:「総合的な心の医療の充実」内科・心療内科の総合クリニック
- 武蔵小杉こころみクリニック 神奈川TMSルーム:「磁気刺激という新たな治療選択肢を」TMS治療専門クリニック
問診をしっかりと行う必要があり、心療内科でメインのご相談させていただいています。
心療内科では初診に30分あまりお話を伺い、再診でも5~10分の診療時間を確保できます。
永野医師が中心となり、コロナ後遺症外来を担当させていただきます。
- 永野医師の診療スケジュールはこちらをご確認ください
身体疾患のチェックは、上野御徒町院と元住吉院でさせていただきます。
元住吉院には、呼吸器専門医・循環器専門医・血液専門医、上野御徒町院には、血液専門医・糖尿病内科専門医が在籍しております。
呼吸機能や心機能、血液などを精査することができ、身体疾患を探っていくことができます。
TMS治療が適切な方は、東京横浜TMSクリニック「みなと東京院」「神奈川TMSルーム」にて専門的なTMS治療を受けていただくことができます。
さらに詳細な検査が必要な場合は、総合病院などにご紹介させていただきます。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
執筆者紹介
野田 賀大
国際医療福祉大学精神科准教授 慶應義塾大学医学精神・神経科学教室特任准教授 当院TMS学術・技術顧問
日本精神神経学会ECT・rTMS等検討委員会委員 日本うつ病学会ニューロモデュレーション委員会委員 日本臨床神経生理学会 脳刺激法に関する委員会委員 The International Federation of Clinical Neurophysiology Editorial Board of Clinical Neurophysiology
厚生労働省精神保健指定医/日本精神神経学会精神科専門医/日本精神神経学会精神科医指導医
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年10月22日
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