メンタル薬の副作用が心配?磁気によるTMS治療の可能性
心の病気は、お薬による治療が中心となっています。
薬を使っていく場合は、どうしても多少の副作用は避けられません。
ですが副作用をうまくコントロールすると、有効な治療選択肢となります。
そうはいっても、副作用が心配な方も少なくないと思います。
ここでは精神疾患でよく使われるお薬の副作用についてみていき、磁気によるTMS治療の可能性についてお伝えしていきます。
副作用のことを正しく知ろう
薬の副作用というと、「体に非常に悪い」イメージが強いかと思います。
たしかに良いものではないと思いますし、身体に負担となっているので「副作用」と呼ばれるのです。
ですが、例えばにんにくを食べ過ぎたら、胃がムカムカすることも「副作用」ですし、激辛麻婆豆腐を食べたらおなかを下してしまうのも「副作用」です。
薬というと物質的なイメージが強いので、必要以上に異物と感じてしまいます。
副作用にも、
- 本当に気を付けるべき副作用
- 悪化すれば対処すればよい副作用
- 他のお薬で対処できる副作用
- 慣れていけば問題ない副作用
など、様々な副作用があります。
お薬にもメリットとデメリットがありますので、治療選択肢のひとつであることは留めておいてください。
添付文章には副作用がたくさん載っている
お薬の添付文章(説明書)をみると副作用がたくさん載っていて、びっくりしてしまう方も少なくありません。
説明書には、少しでも可能性があった副作用はすべて記載されてしまいます。
お薬は発売の前に治験を行い、その後も市販後調査などを行うことで、副作用情報を収集します。
その過程で少しでも因果関係が否定できない副作用は、すべて「副作用あり」として報告されてしまいます。
ですから副作用にも、気を付けるべきものとそうでないもの、頻度の多いものと稀なものがありますので、過度に心配しないことが大切です。
ノセボ効果に注意
「プラセボ効果」という言葉をきいたことがある方は多いかと思います。
偽物のお薬だとしても、「薬」として服用すると効果が出ることです。
すべてのお薬は、このプラセボ効果を極力排除したうえで、有効性を確かめています。
その反対として、「薬は毒!」「薬が怖い!」「本当に正しい薬なのか?」といった思い込みがあると、薬の有効性が弱まってしまったり、副作用が強く出てしまうことがあります。
このようにノセボ効果には注意が必要で、副作用を過度に恐れてしまうことは、自ら副作用を作り出してしまうことがあります。
インターネットなどの情報に惑わされず、副作用に関しても主治医に確認していただき、専門家を信頼して服用いただくことが大切になります。
向精神薬での副作用
精神疾患に使われるお薬には、副作用はどうしてもつきものです。
先ほどもお伝えしましたが、副作用にも様々なものがあります。
同じタイプのお薬でも違いがありますし、また個人差も少なくありません。
ここでは薬の副作用について、よく使われる精神科のお薬(向精神薬)ごとに、副作用の概要をお伝えしていきます。
抗うつ剤
気を付けるべき副作用
抗うつ剤で気を付けるべき副作用としては、
- セロトニン症候群
- 賦活症候群(アクチベーションシンドローム)
- 尿閉
が挙げられます。
セロトニン症候群はセロトニンが過剰なために誘発される症状で、賦活症候群は中枢神経系が過剰に刺激されることによる症状です。
こちらの2つを見極めることは難しいのですが、いずれにしても服用開始して2週間までのうちに生じることが一般的です。
もともと気分の波(bipolarity)がある方に多く、躁転(気分の高揚)してしまうこともあります。
服用開始して不安や焦燥感が明らかに強い場合は、すぐに中止しましょう。
またSNRIなどのノルアドレナリンを増加させるお薬では、特に高齢男性では尿閉(尿がでなくなる)になってしまうことがまれにあります。
よくある副作用
抗うつ剤でよくある副作用としては、
- 胃腸障害(吐き気・下痢)
- 眠気
- 性機能障害
が挙げられます。
胃腸障害は多くの方に認められますが、慣れることがほとんどです。慣れてしまうと、ストレスで下痢してしまう方(過敏性腸症候群)の治療薬としても使われるくらいですので、胃腸がストレスに動じなくなります。
性機能障害はかなりの確率で認められ、薬を減らしていくと元に戻っていきます。
離脱症状に注意
また抗うつ剤では、離脱症状に注意が必要です。
抗うつ剤に体が慣れると、急激に減量した際に特有の離脱症状が認められることが少なくありません。
薬によっても起こりやすさがことなりますが、抗うつ剤の減量に労力を要することもあります。
抗不安薬
よくある副作用
抗不安薬でよくある副作用としては、
- 眠気
- ふらつき
が挙げられます。
多くの場合が症状を和らげるために使うお薬なので、効果と副作用のバランスをみて調整していきます。
常用量依存に注意
抗不安薬は、多くがベンゾジアゼピン系に分類され、アルコールに近い部分があります。
お薬に慣れてしまうと、増えることはなくても減らすと調子が悪くなってしまい、やめられなくなることがあります。このことを、
- 常用量依存
といいます。
なるべく出口を見据えて、メリハリをつけて使っていくことが大切です。
睡眠薬
よくある副作用
睡眠薬でよくある副作用としては、
- 眠気の持ち越し
- 前向性健忘
- 悪夢(オレキシン受容体拮抗薬)
が挙げられます。
睡眠薬にもいろいろな種類がありますが、効果が効きすぎて翌朝まで残ってしまったり、途中で目が覚めたときに、ふらついてしまうことがあります。
また前向性健忘といって、薬を飲んだ後の記憶をなくしてしまうこともあります。(人格は比較的保たれています。)
ベルソムラやデエビゴなどのオレキシン受容体拮抗薬では、レム睡眠が増加することで夢が増え、場合によっては悪夢が副作用となります。
反跳性不眠に注意
従来の睡眠薬は、お薬によって睡眠は維持できるものの、中止するとむしろ以前よりも不眠が悪化することがあります。
このような状態を反跳性不眠とよび、それがゆえにお薬がやめられなくなることがあります。
睡眠薬についても生活習慣と組み合わせたり、依存性が少ないお薬と組み合わせたりして、なるべくメリハリをつけて使っていくことが大切です。
抗精神病薬
気を付けるべき副作用
抗精神病薬で気を付けるべき副作用としては、
- 悪性症候群
- パーキンソニズム
が挙げられます。
悪性症候群は薬の調整の直後に極めて稀に起こる副作用で、脳内のドパミンの急激な変化により、高熱や発汗、意識障害や錐体外路症状(震えや体のこわばり、話しづらさ)などが認められることがあります。
またドパミンをブロックしすぎることで、パーキンソン病のような症状(ジストニアや振戦など)が認められます。
よくある副作用
抗精神病薬でよくある副作用としては、
- 眠気
- 体重増加
- アカシジア
- 生理不順
が挙げられます。
お薬によっても程度は様々ですが、アカシジアはパーキンソンニズムのひとつですが、ドパミンをブロックする作用の程度とは関係なく認めらることがあります。
ソワソワして体を動かしたくなる副作用で、エビリファイやロナセンなどで認められることが多いです。
気分安定薬
気を付けるべき副作用
気分安定薬で気を付けるべき副作用としては、
- 皮疹(薬疹)
が挙げられます。
ラミクタールやテグレトールに多く、特にラミクタールでは過去に高用量から開始した患者さんで亡くなった方がいたことから、慎重に増量していくルールとなっています。
一度慣れてしまえば、あとから薬疹が出てくることは少なく、とくにラミクタールは妊婦さんにも使いやすいお薬なので、女性に使われることが多いお薬です。
よくある副作用
気分安定薬はお薬によっても副作用が異なります。
- デパケン:肝機能障害・高アンモニア血症
- テグレトール:皮疹・聴覚変化
- ラミクタール:皮疹
- リーマス:多尿・甲状腺機能異常・振戦
などが挙げられます。
共通する副作用
お薬の副作用で共通するものをご紹介していきます。
肝機能障害・腎機能障害
お薬はお酒と同じで、役目を終えると肝臓や腎臓で分解され排泄されていきます。
多くのお薬は肝臓で代謝されて分解されますが、一部のお薬が腎臓を中心に排泄されていきます。
肝臓や腎臓に負担がかかっていきますので、必要に応じて採血で確認していくことが必要です。
どちらも早めに気づけば、少しずつ元の機能に回復していきます。
太る傾向
心のお薬は、どうしても太る傾向につながるものが多いです。
気持ちを落ち着けるお薬が多いため、どうしても代謝が落ちて太る傾向にあります。
ですが太りやすさも、お薬によって差があります。
食生活などに気を付けていれば大丈夫なお薬がほとんどですので、過度に心配せず、体重増加があれば医師に相談しましょう。
眠い傾向
気持ちを落ち着けるお薬は、やはり眠気につながる傾向があります。
服用はじめに眠気が強い場合でも、次第に慣れていくことも多いです。
何とかなる程度の眠気であれば、まずは慣れるか様子を見ていただくと良いでしょう。
向精神薬は妊娠や授乳に悪影響?
次に、妊娠や授乳への影響についてお伝えしていきます。
基本的に精神疾患のお薬は、脳に届けるために脂に溶けやすいようにできています。
お薬の成分が吸収されると血中にはいり、それが体の中をめぐりますが、脳と体の循環の間にはBBB(Blood Blain Barrier)と呼ばれる脂の膜があります。
それを通過するためには脂に溶けやすい(脂溶性が高い)必要があり、このため向精神薬は母乳などにも移行しやすいお薬が多いです。
ですがこれまでの経験上、向精神薬の妊娠や授乳への影響は限定的と考えられています。
妊婦や授乳中の方を使って実験はできないので確証は得られていませんが、明らかに赤ちゃんへの有害なリスクが報告されているお薬を除けば、うまく付き合っていくのも一つの方法と思われます。
副作用が少ないTMS治療
薬はどうしても血液の中をめぐって作用するため、身体の他の部分にも作用してしまいます。
ですから副作用は比較的多く、うまく付き合い方を見つけていく必要があります。
それに対してTMS治療は、磁気を介して脳をピンポイントで刺激する治療法になります。
磁気刺激の頻度を変えることで、神経の働きを高めたり、抑えたりすることができます。
これによって脳のバランスを整えて、うつ症状の改善を期待していく治療法になります。
ですからTMS治療のメリットとして、
- 副作用が少ないこと
があげられます。
頭部を刺激するため、頭皮痛のような副作用は多くの方が経験されますが、その他に副作用はほとんど認められません。
重篤な副作用としてけいれん発作がありますが、その発生頻度は極めて稀になります。
TMS治療にもプラセボ・ノセボ効果はあり
プラセボ効果とノセボ効果ですが、お薬だけでなくTMS治療でも認められます。
TMS治療は、頭部にコイルをあてて、磁気を利用して脳を刺激する治療法です。
TMS治療では、シャム刺激という偽刺激を加えても一定の効果は認められますので、プラセボ効果があります。
一方でノセボ効果についても、不安や恐怖から刺激痛が増してしまうことが報告されています。
【rTMSの安全性・忍容性・ノセボ効果】
先進的な治療を行っている意識からプラセボ効果につながることもあれば、怖いイメージからノセボ効果で副作用が強まる可能性もあるのです。
よくある副作用のご相談
TMS治療では、副作用を軽減する目的でのご相談をいただくことが多いです。
よくあるご相談を紹介させていただきたいと思います。
- 認知機能低下(眠気)
- 性機能障害
- 離脱症状(減薬)
認知機能低下
お薬によっては、認知機能低下につながってしまう場合があります。
一番わかりやすいのが眠気になりますが、日中の眠気のせいで生産性が低下してしまうことがあります。
いわゆる鎮静系抗うつ剤や抗不安薬などで認められ、お薬の調整で良くなる場合もあります。
TMS治療では認知機能低下の副作用は認められておらず、むしろ認知機能を改善する報告もあります。
受験生や資格試験前などの患者様に、ご相談いただくことが多いです。
性機能障害
隠れた副作用として困っている方が多いのが、性機能障害になります。
なかなか相談しにくい内容がゆえに、抱えてしまう方も少なくありません。
性機能障害は回復の実感を妨げるだけでなく、妊活などで支障になってしまったり、夫婦関係を損なってしまうこともあります。
抗うつ剤では多くの方でみられる副作用ですが、TMS治療では性機能障害の副作用は全く認められません。
離脱症状
お薬を減薬していくにあたっては、離脱症状に苦しめられることがあります。
そのために減薬がなかなか進まずに、状態は安定していても服薬を継続されている場合もあります。
減薬にあたってTMS治療を上手く利用することもできますし、またTMS治療自体は離脱症状などは認められません。
TMS治療をご検討の方へ
当院では、薬に頼らないTMS治療を行うことができます。
経験豊富な精神科医がお話を伺い、治療選択肢としてTMS治療が適切かどうかをご説明させていただきます。
お薬の副作用で悩まれている方は、TMS治療は有効な治療法になる可能性があります。
ですがTMS治療の効果が期待しづらい場合もあり、その場合は、その理由をご説明させていただきます。
専門家の手助けが必要だと感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年7月10日
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