子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

「長い子育てを終えて、やっとひとりの時間ができる」

「子育て中はできなかったことを、たくさん楽しもう!」

そんな風に、子育てを終えた解放感を味わう方もいるでしょう。ですがその反面、強い喪失感や虚無感に苦しむ方も存在します。

自分の手から、子どもが外の世界に巣立つ。子どもの自立を考えると喜ばしいことなのですが、「自分の役割がなくなってしまった」と強い寂しさを感じる場合があるのです。

空の巣症候群(からのすしょうこうぐん)とも呼ばれる、子育て終了後の心身の不調。

今回は、空の巣症候群になりやすい方の特徴、また予防法と治療法を解説します。

「空の巣症候群」とは?

空の巣症候群のよくある原因と特徴をイラストにしました。

「空の巣症候群(からのすしょうこうぐん)」とは、子どもの自立によって「自分の役割が喪失した」と感じ、空虚感や喪失感が強まっている状態のことです。

空の巣症候群は、「エンプティネスト・シンドローム(Empty nest syndrome)」とも呼ばれています。

主に子育てを終えた40代~50代の母親に多くみられる状態で、適応障害の一種であることが多いです。

環境変化にうまく適応できず、そのストレスが心身の不調にあらわれてきます。更年期障害とも重なることで、症状はさらに重くなることも少なくありません。

このような状況が続く中で、そのままうつ病を発症してしまう方も存在します。

空の巣症候群にならないためには、先を見据えて予防策をとっておくことが大切です。具体的な予防策については、記事の後半で詳しく解説します。

「空の巣症候群」を引き起こすきっかけ

空の巣症候群に陥るきっかけを、イラストでまとめました。

「空の巣」とは、ひなが巣から旅立っていくさまを表しています。つまり、「巣が空っぽになる」ということですね。

子どもの進学、就職、結婚など、子どもが自立するタイミングで心身の不調を感じる方に対して、この名前が付けられました。

手塩にかけて育てた子どもが、自分の手から離れて外の世界に巣立っていく。

長い子育ての中でその瞬間を心待ちにしていた方でも、いざ子どもが自立すると、胸にぽっかりと穴が開いたように感じてしまうのでしょう。

また、子ども中心の生活が、子どもの自立により夫婦中心の生活になれば、ライフスタイルは大きく変わります

その環境の変化が、心身の不調のきっかけとなる可能性もあります。

子育てを終えた母親に多くみられる状態ですが、近年家庭内での介護が増加していることにより、身内の介護が終了したタイミングで空の巣症候群になる方も出てきています。

空の巣症候群の症状

空の巣症候群でよくみられる症状をご紹介させていただきます。

人によって様々な症状となってあらわれていきますが、ストレスという形で蓄積していくことでうつ病につながっていくことがあります。

「からだ」の変化(身体症状)

  • 食欲不振
  • 動機、息切れ
  • 強い倦怠感、疲労感
  • 吐き気
  • 頭痛

「こころ」の変化(精神症状)

  • 胸にぽっかり穴があいたような喪失感、虚無感
  • 何事にもやる気が出ない。無気力な状態が続いている
  • ふとしたときに涙が流れる
  • 強い孤独を感じる
  • 「自分はもう不要な人間だ」と思ってしまう
  • この先、自分がなにをしたらいいのかわからない

うつ病の症状

うつ病は、「病的なエネルギーの低下」が認められる病気になります。

その原因は様々ですが、ストレスが蓄積していくことで脳の機能バランスが崩れてしまいます。。

代表的な症状は、

  • 抑うつ気分
  • 意欲低下
  • 易疲労感

といった症状が2週間以上続くことになり、思考抑制や過度な自責感などが認められるようになります。

うつ病とは?(こころみ医学)

空の巣症候群になりやすい人とは?

空の巣症候群になりやすい方の特徴をイラストにまとめました。

上述したように、空の巣症候群を発症する多くは子育てを終えた母親と言われています。

ですが、時代の変化とともに「父親は外で稼ぎ、母親は家庭を守る」の仕組みが当たり前ではなくなりつつあります。

懸命に子育てと向き合う父親も増えている中で、一概に「母親」と言い切ることはできないでしょう。

また、子育てを終えたすべての親が空の巣症候群になるわけではありません。

なりやすい方の特徴とは?

それでは、空の巣症候群になりやすい方の特徴をみていきましょう。

何事にも一生懸命で、努力家の方

真剣に物事に向き合えることは、素晴らしい長所です。

ただ、一生懸命であるからこそ、向き合う対象が喪失したときに強い喪失感が生まれてしまう可能性があるのです。

何かに熱中しやすいことは長所である反面、うつ病になりやすい病前性格のひとつです。

家庭の外に交流の場がない方

家庭の外で人とコミュニケーションを取っていると、子育てや介護を終了した方の体験談を聞いたり、趣味を楽しんでいる方と出会う機会があります。

自分の未来の姿として、参考になる部分も多いでしょう。

反対に、コミュニケーションが家庭の中だけで完結している場合、子どもの自立によって話し相手がいなくなったり、空白の時間に喪失感を感じてしまう可能性があります。

パートナーとの信頼関係が構築できていない方

心身の不調は、孤独感がきっかけになることも多いです。

パートナーとの信頼関係が希薄で、子育てや介護が終わった虚しさを共有できない、空いた時間を一緒に過ごせないなどの悩みを抱えている方は、空の巣症候群になりやすいと言えるでしょう。

空の巣症候群と退職うつ病

冒頭で申し上げた通り、「男は仕事、女は家庭」といった役割は崩れつつあり、共働きで子育てを協力して行っている家庭が非常に多くなっています。

ですから子育てがひと段落した後の不調も男女に限らなくなってくると思われますが、やはり「空の巣症候群」は母親が圧倒的に多いかと思います。

その一方で、仕事に専念していた場合は、「退職うつ」と呼ばれる状態になってしまうことがあります。

本質的には同じで、大きく環境が変化するタイミングでの適応がうまくいかないことで、うつ症状となってしまうことがあるのです。

「退職うつ」とは?

空の巣症候群にならないための予防策

空の巣症候群の予防法についてイラストにまとめました。

ここからは、空の巣症候群にならないための予防策をご紹介します。

一概に「これをしたら空の巣症候群にならない!」と断言はできませんが、心身を安定させるきっかけにしていただけたらとても嬉しいです。

家庭と切り離された、趣味の場を持つ

子育てや介護をしている方は、どうしても目の前の相手(子どもや介護が必要な身内)だけに集中してしまいがちです。

一生懸命だからこそですが、ときには家庭の役割から離れて、ひとりの人間としての時間を持つことも大切です。

  • 銭湯やスパに通う
  • スポーツジムに入会する
  • 地区のカルチャーセンターに参加する

興味のあることなら、特にジャンルは問いません。ご自身がピンとくるものに、ぜひトライしてみましょう。

好きだったものを、紙に書き出す

自由な時間が豊富だった時期に好きだったことやものを、紙に書き出してみましょう。

子育てや介護を終えて、空白の時間が生まれた際に、すぐに新しい分野に興味を示せる方ばかりではありません。

過去の自分が好きだったこと、興味のあったこと。ゆっくりと思い出してください。

もし少しでも「また始めようかな」と思えたら、ぜひチャレンジしてくださいね。

子どもに関わる仕事やボランティアを始める

自分の子どもではなくても、未来ある子どもに関わる仕事やボランティアを始めることで、自分の役割を実感できる方も存在します。

地域の子ども見守りボランティアや児童館のスタッフ、動物愛護など、自分にできそうなものを探してみるのもいいでしょう。

パートナーと話し合う

心身の安定には、同居するパートナーとの信頼関係も大きく関わってきます。

  • 感じている寂しさは、自分だけではないのか
  • 子育てや介護が終わり空いた時間に、二人でなにをするか
  • これから、老後を二人でどう過ごしていくか

パートナーとゆっくり話し合う時間を設けるのも、ときには必要だと考えます。

「空の巣症候群かな?」と思ったら…

ご自身やご家族の状態を「空の巣症候群かな?」と感じたら、早めに医療機関に相談してください。

「もう少し様子を見よう」と周囲が思っている間に、ストレスが蓄積して状態が悪化していく可能性もあります。

医師の診断を仰いで、状態に合わせて正しい処置をすることが重要です。

空の巣症候群は適応障害の側面が強いですが、うつ状態が一定レベルを超えると、うつ病と診断して治療が必要となります。

以下に、うつ病と適応障害の治療の流れについて、端的にまとめます。

「うつ病」の治療

うつ病と診断された場合は、まずは心身の状態を回復させてから、環境面を過ごしやすいように調整していきます。

  • 心身を休ませる「休息」
  • お薬を用いた「薬物療法」
  • 再発防止につながる「精神療法(心理療法)」
  • お薬の副作用がつらい方に「TMS治療」

うつ病の治療は、主に「1.休息」「2.薬物療法」が軸となります。

お薬の副作用には個人差がありますが、なかには副作用止めを飲んでも薬物療法の継続が難しい方、お薬に心理的な抵抗が強い方もいます。

その場合は、副作用の少ないTMS治療をご提案しています。

「適応障害」の治療

適応障害の場合は、うつ病の治療と比べると環境調整などの割合が多くなります。

  • 症状を取り除くためにお薬を使いつつ、
  • 過ごしやすいように環境を整えて、
  • ときには価値観を整理するためにカウンセリングを行う

もちろん個人差はありますが、上記の「1~3」の流れで進んでいく、もしくは「1~3」を同時に行っていくことが多いです。

副作用の少ない「TMS治療法」

うつ病と診断された場合は、TMS治療も有効な治療法のひとつです。

TMS治療とは、磁気を上手く利用することによって、脳をピンポイントで電気刺激する治療法です。

欧米では2008年から認可されている治療法で、2019年6月には日本でも認可されました。

TMS治療のメリットは、

  • 脳の一部分を刺激するため、その他の部分に影響が少なく、副作用がおきにくい
  • 集中治療を行うことで短期間で改善が期待できる
  • 症状が寛解してからの、再発率が低い

などがあげられます。

ただ、すべての症状に対して、TMS治療が適しているわけではありません。

薬物療法の方が効果が期待しやすい方もいらっしゃいますし、心理療法が本質的に大切な方もいらっしゃいます。

当院では、こころの臨床経験が豊富な医師が、患者さまの状態に合わせた治療法をご提案しています。

ご自身やご家族の状態で困りごとを抱えている方は、お気軽にご相談ください。

うつ病とTMS治療

「空の巣症候群」についてのまとめ

今回は、空の巣症候群とはなにか、また予防策と治療法について、詳しく解説しました。この記事のポイントを、以下にまとめます。

  • 空の巣症候群とは、主に子育てが終了して「自分の役割が消失した」と感じる親が、強い空虚感や喪失感を感じている状態のこと
  • 空の巣症候群を予防するためには、家庭の外に自分の居場所を持つことが大切。また、パートナーとの信頼関係も大きく影響する
  • 心身の不調が長引いている場合はうつ病の可能性があり、医療機関での治療が必要
  • うつ病の治療は、休息と薬物療法が軸となる
  • お薬の副作用が強い場合は、TMS治療を選択する方もいる

子育てや介護が終わり、突然できた空白の時間。自分の中を探しても、「なにもやりたいことがない」と虚しさを感じる方もいるでしょう。

その虚しさは、自分以外の誰かに対して、懸命に時間や労力をかけてきた証拠です。

誇るべきことではあれど、「自分は空っぽだ」と恥ずべきことではないと私は思います。

とはいえ、心身の不調は気の持ちようで回復するものではありません。状態が悪化する前に、ぜひ早めに医療機関へ相談することをおすすめします。

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

当院では通常のお薬による治療だけでなく、薬に頼らないTMS治療を専門チームの下で行っています。

経験豊富な精神科医がお話を伺い、治療選択肢としてTMS治療が適切かどうかをご説明させていただきます。

お薬の副作用を心配されている方は、TMS治療は有効な治療法になる可能性があります。

ぜひお気軽にご相談ください。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

医療法人社団こころみ採用サイト

また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年8月12日

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