線維筋痛症における反復経頭蓋磁気刺激(rTMS):QoLとその脳内代謝基質を評価するランダム化試験

こちらの論文は、

のページに引用しています。

左M1高頻度刺激は線維筋痛症のQOLを改善する可能性あり

こちらの論文は、線維筋痛症患者さんに対して左一次運動野に高頻度刺激を行った際のQOLの改善と脳内代謝を調べた研究になります。

38名の患者さんを高頻度刺激と偽刺激にランダムで分けて、QOLを評価しています。

このようにTMS治療によって、線維筋痛症の生活の質が改善する可能性が示されています。

その原因を調べるために、PETをつかって脳代謝の変化を調べたところ、右大脳辺縁系(内側側頭)の代謝増加が認められています。

このことが、情緒的側面でQOLの改善につながっている可能性を示唆しています。

症例数の少なさや盲検化などの課題はありますが、TMS治療が線維筋痛症に効果が期待できるかもしれないという可能性を示してくれています。

論文のご紹介

線維筋痛症に対するrTMSの論文をご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

目的

この二重盲検ランダム化プラセボ対照試験では、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)が線維筋痛症患者の生活の質(QoL)に与える影響と、その脳内代謝基質の可能性について検討した。

方法

左一次運動野への高頻度rTMS(n=19)または偽刺激(n=19)を、10週間にわたり14セッションで受けるよう、38名の患者をランダムに割り付けた。

主要な臨床アウトカムは、11週目終了時のQoLの変化で、線維筋痛症影響度質問票(FIQ)を用いて測定した。

副次的な臨床アウトカムは、36項目の短文健康調査(SF-36)を用いて測定した精神的および身体的なQoL要素に加えて、痛み、気分、不安などであった。

治療前、治療2週目、11週目に、安静時の[(18)F]-フルオロデオキシグルコースPET代謝を評価した。

全脳のボクセルベースの解析を行い、グループ間の代謝の経時的変化を調べた。

結果

11週目の時点で、実刺激群の患者は、偽刺激群に比べてFIQ(p=0.032)およびSF-36の精神に関連する項目(p=0.019)におけるQoLの改善が大きかった。

その他の臨床アウトカムについては、有意な影響は認められなかった。

偽刺激群と比較して、実刺激群の患者は、治療前から11週目までの間に右内側側頭代謝の増加を示し(p<0.001)、これはFIQおよびSF-36の精神に関連する項目の変化と相関していた(それぞれ、r=-0.38、p=0.043;r=0.51、p=0.009)。

QoLの改善は主に情緒的、感情的、社会的な側面に関わるものであった。

結論

本研究では、rTMSが線維筋痛症患者のQoLを改善することが示された。

この改善は、右大脳辺縁系の代謝の増加と関連しており、QoLに関わる情緒的側面に対するrTMSの影響には神経の基質が関わっている可能性が示唆された。

エビデンスの分類

本研究は、rTMSが偽刺激と比較して、線維筋痛症患者のQoLを改善するというClass IIのエビデンスを提供する。

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年5月1日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

TMS治療は怪しい?問題点と誤解を解説

体に負担を与えずに脳にアプローチする治療法として、近年注目を集めている「TMS治療法」。心の病気に対する、新たな治療効果が期待されています。 世界中でエビデンスが蓄積されつつあるTMS治療ですが、日本でも正式な適応が認め… 続きを読む TMS治療は怪しい?問題点と誤解を解説

投稿日:

当院のうつ病TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

治療成績 病名:うつ病 期間:2022年1月~2022年12月31日 症例数:117名(30回実施214名) 寛解率56% 反応率79%程度 2022年1月から、2022年12月末までに30回以上実施したうつ病・うつ状態… 続きを読む 当院のうつ病TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

投稿日:

当院の強迫性障害TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

治療成績 病名:強迫性障害 期間:2022年1月~2022年12月末 症例数:25名(データ:16名) 30%改善:50% 2022年1月から、2022年12月末まで1年間の全症例のうち、強迫性障害として急性期治療終了と… 続きを読む 当院の強迫性障害TMS治療成績(2022年1月~2022年12月末)

投稿日:

人気記事

子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

「長い子育てを終えて、やっとひとりの時間ができる」 「子育て中はできなかったことを、たくさん楽しもう!」 そんな風に、子育てを終えた解放感を味わう方もいるでしょう。ですがその反面、強い喪失感や虚無感に苦しむ方も存在します… 続きを読む 子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

投稿日:

「燃え尽き症候群(バーンアウト)」とは?なりやすい人や治療法を解説

「燃え尽き症候群(もえつきしょうこうぐん)」とは、その名の通り、それまでの意欲や熱意がまるで燃え尽きたように消失してしまう状態のことです。 もともとは意欲があった人が、突然やる気を失う。いきなりの変化に「あんなに熱意があ… 続きを読む 「燃え尽き症候群(バーンアウト)」とは?なりやすい人や治療法を解説

投稿日:

精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

「車がないと会社に通勤できない」 「仕事で車を運転する必要がある」 「生活するうえで、車がないと困る」 日常生活の中で、車の運転が必須になっている方もいるでしょう。 それは、精神疾患の治療をしている患者さんも同じです。お… 続きを読む 精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

投稿日: