①治療頻度をこまめに

TMS治療の効果を高めるために最も重要なことは、治療頻度を多くすることです。
TMS治療は、脳の神経細胞に働きかけて神経の柔軟さ(神経可塑性)を高めることで治療効果を発揮します。
1回の刺激ではしばらくして効果が薄れてしまいますが、刺激を重ねていくことで効果の持続性が高まっていきます。
このような治療ですから週1回では効果が期待しづらく、週3回以上、できれば週5回の集中治療の方が効果的です。
当院では1日の刺激回数を工夫することで、週2回で治療効果が期待できるように工夫していますが、通院頻度は多いほど効果が期待できます。
ですからなるべく、短期で集中的に治療を受けていただく方が効果が期待できます。
脳のトレーニングと思っていただき、一貫して繰り返しトレーニングしたほうが効果も高まります。
TMS治療の効果と治療プロトコール
行動活性化にもつながる
通院頻度が多くなることは、「行動活性化」にもつながります。
外出するのがおっくうな時に、食べ物を買いに外出したとします。晴れた日に出かけてみると、「意外と気持ちが良いものだな」と感じたことはありませんか?
このように、行動してみることで気持ちが前向きになり、「外出するのは気持ちが良いものだな」と認知が変化することもあります。
TMS治療を受けに通院すること自体で、行動活性化することにつながります。
TMS治療と行動活性化療法を併用することは、特にデメリットもなく効果が期待できるという報告もあります。
【大うつ病性障害の治療中での行動活性化療法】
日記をつけてみるだけでも、自分自身の認知の変化に気づけたりしますのでお勧めです。
ぜひ以下のページを参考にしていただき、行動活性化療法に取り組んでいただけると嬉しいです。
行動活性化療法
TMS治療中にできること

それではTMS治療にあたって、治療効果を高めるために何ができるでしょうか?
に分けてみていきましょう。
治療前後
治療前後では、当たり前のことかもしれませんが、規則正しい生活が大切です。
②睡眠をよくとる

睡眠はとても大切です。
TMS治療では脳に刺激を与えるため、頭を使ったのと同じように脳に疲労を与えます。
それが睡眠を深くさせてくれることがあり、TMS治療の効果として熟眠感などの睡眠改善をはじめに認めることが多いです。
睡眠障害が目立つ方に、TMS治療の効果が期待しやすいという報告もされています。
睡眠不足はけいれん発作を引き起こしやすくもなりますので、なるべく睡眠をとるように意識してください。
③バランスの良い食生活
健康的でバランスのとれた食生活は、治療中の脳のエネルギーを維持するのに大切です。
またビタミンや鉄、亜鉛といった栄養素がバランスよくとれることで、何らかの改善が期待できるかもしれません。
うつ病と食事・栄養
④水分をしっかりとる

十分に水分を取ることも大切です。
成人では60~65%は水分でできており、細胞の活動のバランスを整えるためにも水分は大切です。
脱水状態はけいれんリスクも高めますので、十分に水分をとることで脳機能を保ち、倦怠感などを軽減する可能性があります。
⑤なるべく体を動かす
運動は心身に良いことは感覚的にも理解しやすいかと思います。
TMS治療中に体を動かすことで行動活性化するだけでなく、熟眠感など睡眠の改善も期待できます。
うつ病と運動
⑥カフェインは控えめに
カフェインには覚醒作用があります。
1杯のコーヒー(カフェイン150mg程度)では、脳の皮質興奮性に影響を及ぼさないという報告があります。
【カフェインは皮質運動性の測定に影響しない】
むしろカフェインの覚醒作用によって、治療の刺激パルスの効果を高める可能性があります。
ですが不安が強い方はカフェインを避けるべきですし、中毒をきたす450mg以上のカフェインは控えるべきです。
ですからカフェインは、ほどほどに控えていただくことが望ましいです。
⑦アルコールを控える
アルコールは抑制作用があります。
TMS治療の間は多少の飲酒で効果が大きく変化することはないですが、なるべく飲酒は控えたほうが効果が期待できます。
治療中にいきなり飲酒を中断することもけいれんリスクにつながるので、できれば計画的にアルコールを控えて治療に臨めることが理想です。
【TMS研究における嗜好品使用の影響について】
治療中
つぎに、治療中にできる工夫をみていきましょう。
⑧治療中は居眠りしない

TMS治療中は、覚醒を維持している方が治療効果が期待できます。
これには2つの理由があります。
- 居眠りで脳の働きが抑制される
- プローブの位置がずれてしまう
睡眠状態は脳の働きが抑制されてしまいます。
もう少し正確にお伝えすると、睡眠中の脳のネットワーク(視床―皮質ネットワーク)になると、外部の刺激に対して鈍感となります。
脳の皮質に刺激しても反応が抑制されてしまうので、TMS治療の効果が薄れてしまいます。
また治療中に居眠りしてしまうと、頭の位置がづれてしまうことがあります。
刺激部位がずれてしまうと、効果が期待できなくなってしまいます。
頭を使っても大丈夫

治療中はなるべく覚醒を保つことが大切です。
リラックスして治療を受けていただければ、読書やゲームなどで頭を使っていても大丈夫です。
コイルの位置がずれないように気を付けていただければ、ゆったりとおすごしください。
けいれん発作を高めるリスク
TMS治療の稀ですが注意が必要な副作用として、けいれん発作が挙げられます。
けいれん発作を起こしやすい要因としては、
- 寝不足
- アルコール
- 低血糖
- けいれんを惹起しやすい薬物(三環系抗うつ薬など)
- rTMS中の居眠り
- 薬物療法の変更(急な減薬)
などが挙げられます。
TMS治療の副作用と安全性
⑩TMS効果を高めるためのお薬の調整

TMS治療を行っていくにあたって、お薬の調整で効果を高めることができます。
しかしながら急な減薬は、けいれん発作のリスクを高めてしまうことがあります。
必ず主治医と相談して、お薬の調整をしていきましょう。
TMS治療にあたってのお薬調整
ベンゾジアゼピン系(抗不安薬・睡眠薬)
抗不安薬や睡眠薬のうち、ベンゾジアゼピン系に分類されるお薬は、減量するとTMS治療の効果は強まります。
これはアルコールや治療中の居眠りと同様ですが、脳の皮質を抑制してしまいますので、TMS治療による刺激が減弱してしまうのです。
急な減薬は負担が大きくなりますので、できる範囲で行っていただくことが望ましいです。
なるべくTMS治療の前はベンゾジアゼピン系のお薬を飲まずに我慢いただき、頓服などの使用を控えていただく方が、治療にとっては良い方向につながります。
【大うつ病性障害のrTMS治療における併用薬と臨床アウトカム】
⑩治療効果を焦らない

TMS治療を開始すると、効果の実感をすぐに期待したくなってしまいます。
ですがTMS治療の効果は、個人差があります。
5~6回程度の治療で効果の実感が出てくる方もいらっしゃいますが、15~20回くらいして効果を感じられる方もいらっしゃいます。
この違いは、「神経の結びつきやすさ(神経可塑性の大きさ)」に関係しています。
ですから少なくとも20回までは、「焦らず我慢」していただくことも必要です。
TMS治療は最終手段ではない
TMS治療の効果が乏しくても薬物療法や心理療法が有効な場合もありますし、さらに治療効果が実証されている方法としてECT(電気けいれん療法)もあります。
焦らずにTMS治療の効果をそのままに感じていただくことが、結果的に治療効果につながります。
TMS治療の効果