「燃え尽き症候群(バーンアウト)」とは?なりやすい人や治療法を解説
「燃え尽き症候群(もえつきしょうこうぐん)」とは、その名の通り、それまでの意欲や熱意がまるで燃え尽きたように消失してしまう状態のことです。
もともとは意欲があった人が、突然やる気を失う。いきなりの変化に「あんなに熱意があった人がどうして?」と、周囲の方が戸惑うことも多いです。
また、急激な心身の変化に、不調を抱えているご本人が困惑してしまうケースも珍しくありません。
今回は、燃え尽き症候群の特徴に加えて、燃え尽き症候群になりやすい人や治療法について、詳しく解説します。
目次
「燃え尽き症候群」とは?
「燃え尽き症候群(もえつきしょうこうぐん)」とは、責任感を持って仕事に取り組んでいた人が、急激に意欲や熱意を失くしてしまった状態をさします。
別名として「バーンアウト」とも呼ばれ、1970年代にアメリカの精神科医であるハーバート・フロイデンバーガー氏によってその名前がつけられました。
バーンアウトとは、直訳で”焼き尽くす・燃え尽きる”などの意味を持ちます。
燃え尽き症候群の定義
燃え尽き症候群は、数年前までは医学用語としては使われておらず、いわば概念として使用されている言葉でした。
それが約30年ぶりに改定された国際疾病分類(ICD-11)の中で、燃え尽き症候群の定義が初めて記載されました。
ICDとは、病院やクリニックで広く使用されている手引書で、病気に対しての診断を世界で統一するために作成されているものです。
ICD-11の中では、燃え尽き症候群の定義を以下のように定めています。
- エネルギーの枯渇、または疲労感がある
- 仕事から離れたい気持ちが増加する。また仕事に対して否定的・冷笑的な感情が生まれる
- 効率的に仕事を進めることが難しくなる。また仕事に対しての達成感がなくなる
ICD-11では、燃え尽き症候群は適切に管理されていない慢性的な職場ストレスにより、健康状態に影響が出ることと考えられています。
診断をもとに病名を付けるのであれば、ご本人の状態によって「うつ病」「適応障害」などが選択肢にあがるでしょう。
また、ICD-11では、燃え尽き症候群による心身の不調はあくまで職場ストレスの影響であり、「雇用や失業に関連する問題」による不調の1つに分類されています。
病名というわけではなく、原因からみた病像になります。
燃え尽き症候群の特徴
燃え尽き症候群に陥った人は、主に以下の3つを感じると考えられています。
情緒的消耗感(emotional exhaustion)
- 今まで楽しいと思えていた仕事が、つまらないと感じる
- 仕事に精を出しすぎて、身も心も疲れ果てたと感じる
「情緒(じょうちょ・じょうしょ)」が「消耗」すると表されているように、仕事に対しての情熱が燃え尽きて、熱意や意欲が低下している状態のことです。
脱人格化 (depersonalization)
- 同僚やクライアントの顔を見るとイライラするようになった
- いつもはできていた周囲への気配りをしたくないと感じる
「人格」を「脱する」と表されているように、それまでの人格が嘘のように周囲に対して攻撃的になったり、思いやりのない態度を取ることが特徴です。
個人的達成感の低下 (personal accomplishment)
- 仕事を終えても達成感が生まれない
- 仕事に対しての有能感が消えて、自己否定の気持ちが出てくる
その名の通り、仕事で得られていたはずの達成感が失われてしまうことです。
達成感の欠如は、仕事に対してのモチベーション低下にもつながり、それにより情緒的消耗感がさらに強まる可能性も否めません。
燃え尽き症候群について詳しく解説してきましたが、わかりやすくまとめると、
- それまで仕事に真剣に取り組んでいたのに突然やる気を失った
- 職場の人に対しての思いやりをいきなり持てなくなった
- 今まで感じていた達成感や有能感がゼロになった
の特徴があげられます。上記の1〜3を日常的に感じている場合は、燃え尽き症候群に陥っている可能性を考えたほうがいいかもしれません。
燃え尽き症候群の原因とは?
燃え尽き症候群による心身の不調は、前提として職場に関するストレスが要因です。
働く中で感じるストレスは個人差がありますが、多いものだと以下のものが考えられるでしょう。
- 職場の人間関係に不満がある
- 評価システムがあいまいで、正当な評価を受けられていないと感じる
- 休息を取る暇がなく、仕事に追い立てられている
- 対面業務により笑顔を絶えず求められ、気持ちがすり減っていると感じる
また、ストレスは負の感情だけではなく、喜ばしい変化に対しても感じることもあります。
「自分がメインで進めてきた大きなプロジェクトが完了し、仕事量やスケジュールに大きな変化が出た」なども、ストレスの原因となり得るでしょう。
燃え尽き症候群になりやすい人とは?
それでは、どんな人が燃え尽き症候群になりやすいと言えるのでしょうか?
ICD-11の中で燃え尽き症候群になりやすい人の特徴が定められているわけではありませんが、職場のストレスが要因になる以上、ストレスを抱え込む人が燃え尽き症候群になりやすいといっても間違いではないでしょう。
- 仕事に対して手を抜いてこなかった人
- 仕事に取り組むうえで、周囲とのコミュニケーションも丁寧にこなしてきた人
- 長時間勤務や過剰なノルマなど、職場で強い負担を抱えている人
- 周囲からの評価を正当に受けられていないと感じている人
- 仕事とプライベートの境界がなく、生活が仕事中心になっている人
上記に当てはまる人は、仕事で受けたストレスを上手に発散できていない可能性があると言えるでしょう。
一つのことに熱しやすく執着してしまい、なかなか冷めないのは燃え尽き症候群につながりやすいといえます。
反対に、仕事とプライベートを区別して上手に息抜きしている人や、ひとりで仕事を抱え込まずに周りに適宜相談している人は、ストレスの蓄積を防いでいるとも言えるため、燃え尽き症候群になりにくいと考えられます。
燃え尽き症候群にならないためには?
2021年11月現在では、燃え尽き症候群にならない確実な方法は残念ながら存在しません。
ただ、職場でのストレスが要因になるのであれば、仕事から離れられる時間をしっかりと作ることで、心身の不調を減らすことにも繋がるはずです。
ここでは、職場のストレスを少しでも緩和する方法を、一緒に考えていきましょう!
- 職場の緊張感を和らげるために、信頼できる人・相談できる人を探す
- 評価システムを確認して、自分が求める評価を得る方法をハッキリさせる
- 与えられた業務量や立場がオーバーワークになっていないか考える
- 勤務時間以外は仕事用携帯を見ないなど、仕事とプライベートを区別する
- 日々クレームなどで気持ちを疲弊している場合は、会社としてどこまで対応するのかを明確にして、自分の身を守るための線引きを決める
- 趣味を見つけるなど、仕事のことを忘れる時間を作る
上記にあげたものは、あくまで一例です。ご自身の気持ちと向き合う時間を確保して、まずは困りごとを把握することが、心身を安定させる第一歩だと考えます。
燃え尽き症候群に陥っている場合、心身の状態が悪化して、うつ病や適応障害を発症している可能性もゼロではありません。
その場合、ひとりで困りごとを把握・解決するのは容易ではないでしょう。
生活に支障があるレベルで心身の不調を抱えている場合は、病院やクリニックなどの医療機関にご相談しながら、ご自身の困りごとと向き合っていきましょう。
燃え尽き症候群の方を支える周りの方へ
燃え尽き症候群のみならず、体の怪我ではない目に見えない不調の場合、周りから見たら「やる気がないだけ」「甘えているだけ」と感じることもあるかもしれません。
ただ、燃え尽き症候群に陥っている場合、頭ごなしに注意や否定をしても状態がよくなることはありません。
また、うつ病や適応障害を発症している場合は、さらにご本人のやる気や根性でどうにかなる問題ではないのです。
- 真面目な勤務態度だったのに、いきなり遅刻や欠勤が増えた
- おおらかな人柄だったのに、周囲に冷たく接することが増えた
- 身だしなみには気を使う人が、適当な髪や服で出勤するようになった
など、過去の姿と比較して変化が大きい場合は、ご本人ではどうにもならない状態になっている可能性が高いです。
社内の産業医に相談する・病院やクリニックの受診を勧めるなど、周囲の方ができることがないか、ぜひ検討してください。
燃え尽き症候群の治療法
燃え尽き症候群によって不調に陥っている場合は、まずは職場のストレスから距離を取ることができる方法を考えてみましょう。
- 病院やクリニックに相談する
- 部署変更や雇用契約の変更など、ストレスを和らげる方法を上司と相談する
- 医師の診断書があれば休職が可能な場合は、一時的に会社から離れることも検討する
簡単ではないかもしれませんが、今の会社にいる以上ストレスから離れられないと感じるのであれば、休職を検討するのもひとつの方法です。
心身の不調を放置して仕事を続けていくことで、さらに状態が悪化する可能性はゼロではありません。
考えられるストレスの原因から離れても状態がよくならない場合は、うつ病の発症も考えられます。
うつ病の治療にも休息は大切ですが、状態が芳しくない場合、適切な治療を行わないと回復が難しい可能性もあります。
うつ病を発症していた場合は?
医療機関を受診した際にうつ病と診断された場合は、ご本人の状態に合わせて適した治療法を行っていきます。
うつ病の治療法は、まずは「休息」、そして「薬物療法」「精神療法」「TMS治療」などが選択肢としてあげられます。
お薬を用いた「薬物療法」
うつ病の治療は、休息と薬物療法を軸に進めていくことが多いです。
しっかり休める環境を整えながら、体に合ったお薬を探していきます。
お薬の副作用には個人差がありますが、まったく副作用が出ない方はそう多くはないでしょう。
基本的には、副作用の程度を確認しながら、少しずつお薬の量を調節していきます。
再発防止の「精神療法」
精神療法は、主に再発予防を目的に行うことが多いです。
臨床心理士などの専門家と対話を重ねながら、困りごとの解決方法を探っていきます。
ご本人の状態によっては精神療法による対話が難しい場合もあるため、ある程度落ち着いてから精神療法に移行する、またはその他の治療法と併用しながら精神療法を行っていくことがほとんどでしょう。
副作用の少ない「TMS治療」
TMS治療とは、脳をピンポイントで磁気を介して電気刺激する治療法です。
専用の機器で脳の一部分のみを刺激するため、その他の部分に影響が少なく、副作用が起きにくいことが特徴です。
副作用や痛みの少ない「TMS治療法」
TMS治療は、当院でも受けられる治療法のひとつです。
2019年6月には日本でも保険適応が認められましたが、まだ聞き馴染みのない方も多いと思うので、詳しくご説明します。
特殊な機器を用いて脳の一部分を刺激するTMS治療は、副作用が少ないことが大きなメリットと言えます。
治療中にチクッとした軽い痛みを感じることはありますが、治療が進むにつれて慣れる方がほとんどです。
お薬を用いないので、薬物療法による副作用に困っている方や、日常的に運転や危険作業があり服薬が難しい方にも選ばれています。
TMS治療のその他のメリットは、
- 副作用が少なく治療の負担が少ないため、働きながら治療もできる
- 集中治療を行うことで、治療期間を短くできる
- 症状が寛解してからの再発率が低い
などがあげられます。
「燃え尽き症候群」についてのまとめ
今回は、燃え尽き症候群の特徴や、燃え尽き症候群にならないためのヒントを解説しました。
この記事のポイントを、以下にまとめます。
- 「燃え尽き症候群」とは、ひたむきに仕事に取り組んでいた方が突然意欲や熱意を失ってしまう状態。「バーンアウト」とも呼ばれている
- 燃え尽き症候群は、職場のストレスが蓄積されることにより陥る
- 燃え尽き症候群にならないためには、仕事とプライベートを区別し、ストレスを発散する時間を作ることが大切
- 燃え尽き症候群に陥ったのち、うつ病を発症することもある
- うつ病を発症した場合は、医療機関による適切な治療が必要。
- うつ病の治療は休息と薬物療法が軸だが、お薬の副作用がつらい方などは、TMS治療も選択肢のひとつ
TMS治療について医師としての考えを添えさせていただくと、すべての症状に対して「TMS治療をすれば大丈夫!」とは言い切れません。
ご本人の状態に合わせて、TMS治療とは別の治療法を考えていく必要もあるでしょう。
当院では、こころの臨床経験を積み重ねてきた専門医が、TMS治療も含めた複数の治療選択肢をご提案させていただきます。
心身の不調を抱えている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。
また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。
取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。
執筆者紹介
大澤 亮太
医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師
日本精神神経学会
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了
カテゴリー:こころみ医学 投稿日:2021年11月20日
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