ベンゾジアゼピンの使用は、高齢者の認知症および認知症閾値以下の認知障害リスクと関連するか?カナダにおける健康と加齢に関する研究

こちらの論文は、

のページに引用しています。

ベンゾジアゼピン系は軽度の認知機能への影響のみ

こちらの論文では、ベンゾジアゼピン系のお薬の使用が高齢者の認知機能にどのような影響があるかを調べたRCTになります。

認知症閾値以下の認知障害(CIND)とアルツハイマー病(AD)と全認知症をそれぞれ5000例ほど集めて、10年を追跡調査しています。

それによれば、CINDはハザード比で1.3程度と有意差がついていましたが、認知症との関連性は認められませんでした。

高齢者にベンゾジアゼピン系のお薬を使う際には、認知機能の低下には注意が必要ではありますが、病的な認知機能の低下に進行することは少ないという結論となっています。

論文のご紹介

ベンゾジアゼピン系抗不安薬睡眠薬と、高齢者の認知症リスクについてのRCTをご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

背景

ベンゾジアゼピン系薬剤の使用と認知機能低下との関連は、高齢者において依然として論争の的となっている。

目的

本研究の目的は、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用に伴う認知症閾値以下の認知障害(CIND)、アルツハイマー病(AD)、および全認知症のリスクを評価することである。

また、性別による影響修飾についても検討した。

方法

データはCanadian Study of Health and Agingから得られたもので、ランダムに選ばれた65歳以上の地域社会や施設で生活する10,263人の参加者を対象とした10年間の多施設共同研究である。

現在のベンゾジアゼピン系薬剤への曝露は、対面式のインタビューまたは質問票による自己申告で評価した。

年齢を時間軸としたCox比例ハザード回帰モデルを用いて、性別、教育、喫煙、アルコール摂取量、うつ病、身体活動、非ステロイド性抗炎症薬の使用および血管性合併症を調整して、ハザード比を推定した。

結果

認知症では5281人、ADでは5015人、CINDでは4187人が対象となった。

ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は、非使用者と比較して、最も単純化したモデルでCINDのリスク増加と関連していた(ハザード比=1.36、95%CI=1.08-1.72)。

完全に調整されたモデルでも結果は同様であった(ハザード比=1.32、95%CI=1.04-1.68)。

ベンゾジアゼピン系薬剤の使用と認知症およびADのリスクとの間には関連性はなかった。

これらの効果はすべて男女間で同様であった。

結論と関連性

一般の高齢者におけるベンゾジアゼピンの使用は、その後の認知機能障害の発生に関連しているが、認知症やADの発症には関与していない。

全体的な認知機能を維持するためにベンゾジアゼピン系薬剤を処方する際には注意が必要である。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年6月5日

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