大うつ病エピソードの急性期治療のための反復経頭蓋磁気刺激:ネットワークメタアナリシスを用いたシステマティックレビュー

こちらの論文は、

のページに引用しています。

両側rTMSとプライミングTMSの効果がやや優位

こちらの論文は、TMS治療のうつ病に対する最適なプロトコールを探るために行われたネットワークメタアナリシスの論文になります。

JAMA Psychiatryに掲載された、注目された論文のひとつです。

2016年10月までに発表された様々なうつ病に対するTMS治療について、プロトコールごとに治療効果や忍容性を比較しています。

これによれば、

  • プライミング低頻度
  • 両側
  • 高頻度
  • シーターバースト
  • 低頻度

これらで効果が認められ、副作用も含めてその違いはほとんど認められなかったという結果となっています。

両側rTMSとプライミング低頻度rTMSが多少有利な結果となっていましたが、プライミング低頻度刺激は症例数が少ないです。

プライミング低頻度とは、低頻度刺激の前に高頻度刺激をすると、理論的に治療効果を高めるというプライミング効果を利用した低頻度刺激になります。

ただし両側rTMSは非常に時間がかかってしまうため、費用対効果を考えれば、うつ症状にはシーターバースト法がもっとも合理的に思われます。

論文のご紹介

TMSのうつ病治療に最適なプロトコールをご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

重要性

大うつ病性障害(MDD)の治療として反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)のいくつかの戦略が研究されているが、それらの相対的な有効性と受容性は不明である。

目的

臨床的に意味のある治療階層を得るために、ネットワークメタアナリシスを行うことで、MDDに使用されるrTMSの様々な様式の相対的な有効性と受容性を確立する。

データソース

2016年10月1日までのPubMed/MEDLINE、EMBASE、PsycInfoおよびWeb of Scienceを検索した。

研究の選択

任意のrTMS介入と、偽刺激または別のrTMS介入とを比較したランダム化臨床試験。セッション回数が10回未満の試験は除外した。

データの抽出と統合

2人の独立した査読者が、データ抽出と品質評価のために標準フォームを使用した。

データを統合するために、ランダム効果、標準ペアワイズおよびネットワークメタアナリシスを行った。

主要アウトカムと測定法

奏効率および受容性(脱落率)として、寛解は副次的アウトカムとした。

効果の大きさは、オッズ比(OR)と95%信頼区間(95% CI)で報告した。

結果

81件の研究(患者数4233名、女性59.1%、平均年齢46歳)が対象となった。

偽刺激よりも効果的な介入は、プライミング低頻度(OR、4.66;95% CI、1.70-12.77)、両側(OR、3.96;95% CI、2.37-6.60)、高頻度(OR、3.07;95% CI、2.24-4.21)、シータバースト刺激(OR、2.54;95% CI、1.07-6.05)、低刺激(OR、2.37;95% CI、1.52-3.68)のrTMSであった。

新規のrTMS介入(加速rTMS、同期rTMSおよびdeeprTMS)は、偽刺激よりも効果がなかった。

シータバースト刺激と偽刺激の比較を除いて、寛解についても同様の結果が得られた。

すべての治療法は、少なくとも偽刺激と同等の受容性があった。

治療法の推定された相対的順位によって、プライミング低頻度および両側rTMSが、すべてのrTMS戦略の中で最も効果的で受容可能な治療法である可能性が示唆された。

しかし、結果は不正確であり、低頻度、高頻度および両側rTMS以外の介入については、利用できる試験が比較的少なかった。

結論と妥当性

rTMSモダリティの違いによる臨床効果と受容性の差はほとんど見られず、両側rTMSとプライミング低頻度rTMSがある程度有利であった。

これらの知見は、MDDの短期治療におけるこれらのアプローチの可能性を調査する大規模なRCTのデザインを正当化するものである。

現在のエビデンスでは、MDDの治療法として新規のrTMS介入を支持することはできない。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

医療法人社団こころみ採用サイト

また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

画像名の[sample]の部分に記事の名前を入れます

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年3月19日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

スポーツ選手を悩ますイップスの症状とは?薬に頼らない治療法についても解説

勝負が決まる場面で思うようなプレーができず、悔しい思いをしたアスリートの方もおられるのではないでしょうか。 競技中に手がふるえたり、動かなくなってしまったりして、いつも通りのプレーができなくなってしまうことがあります。 … 続きを読む スポーツ選手を悩ますイップスの症状とは?薬に頼らない治療法についても解説

投稿日:

【2024年8月最新】東京のTMS治療クリニック21院!見極めポイントを精神科医が詳しく解説

目次 東京TMSクリニック® 東京でのTMS治療 東京で安心できるTMSクリニック5選 東京でTMS治療を受けられるその他の16医療機関 TMS治療クリニックの選び方 東京横浜TMSクリニックについて 感染対策について … 続きを読む 【2024年8月最新】東京のTMS治療クリニック21院!見極めポイントを精神科医が詳しく解説

投稿日:

コロナ後遺症に対し新規経頭蓋磁気刺激法(rTMS)による治療開発 ~多施設共同ランダム化プラセボ対象比較試験の開始~

臨床研究の概要 医療法人社団こころみ東京横浜TMSクリニックは、「コロナ後遺症に伴う不安抑うつ・認知機能障害に対する新規経頭蓋刺激療法(rTMS)による治療法開発に向けた多施設共同試験」を実施いたします。 新型コロナウイ… 続きを読む コロナ後遺症に対し新規経頭蓋磁気刺激法(rTMS)による治療開発 ~多施設共同ランダム化プラセボ対象比較試験の開始~

投稿日:

人気記事

子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

「長い子育てを終えて、やっとひとりの時間ができる」 「子育て中はできなかったことを、たくさん楽しもう!」 そんな風に、子育てを終えた解放感を味わう方もいるでしょう。ですがその反面、強い喪失感や虚無感に苦しむ方も存在します… 続きを読む 子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

投稿日:

精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

「車がないと会社に通勤できない」 「仕事で車を運転する必要がある」 「生活するうえで、車がないと困る」 日常生活の中で、車の運転が必須になっている方もいるでしょう。 それは、精神疾患の治療をしている患者さんも同じです。お… 続きを読む 精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

投稿日:

スポーツ選手を悩ますイップスの症状とは?薬に頼らない治療法についても解説

勝負が決まる場面で思うようなプレーができず、悔しい思いをしたアスリートの方もおられるのではないでしょうか。 競技中に手がふるえたり、動かなくなってしまったりして、いつも通りのプレーができなくなってしまうことがあります。 … 続きを読む スポーツ選手を悩ますイップスの症状とは?薬に頼らない治療法についても解説

投稿日: