物質依存患者の渇望と物質消費に対するrTMSの効果:システマティックレビューとメタアナリシス

こちらの論文は、

のページに引用しています。

左DLPFC高頻度刺激は、物質依存症の渇望と消費に有効

こちらの論文は、アルコールやニコチン、違法薬物などの物質依存症の患者さんに対するTMS治療の効果を分析したものになります。

こちらによれば、ニコチン依存症のターゲットと同じ左DLPFCの高頻度刺激のみ渇望を低下させることが示されています。

また左DLPFCだけでなく、両側DLPFCと島皮質に対するdTMSは消費抑制に効果があったことが分かります。

このように左DLPFCに対する高頻度刺激は、物質依存の治療に効果が期待できるかもしれません。

いまだ実験的な試みではありますが、物質依存症の治療にTMS治療が有効である可能性が示唆されています。

論文のご紹介

物質依存症に対するメタアナリシスおよびシステマティックレビューをご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

背景と目的

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、物質依存治療の介入としてますます使用されるようになってきている。

我々は、アルコール、ニコチンおよび違法薬物依存患者におけるrTMSの抗渇望効果と消費抑制効果のエビデンスを評価することを目的とした。

方法

2000年1月から2018年10月までに発表された26件の無作為化比較試験(RCT)のシステマティックレビューとメタアナリシスにより、ニコチン、アルコールおよび違法薬物依存患者(n=748)の渇望と物質消費に対するrTMSの効果を調査した。

自己申告の質問票または視覚的アナログスケールを用いて測定された渇望と、自己申告の物質摂取量または依存再発症例数を用いて測定された物質消費をそれぞれ一次アウトカム、二次アウトカムとした。メタ回帰の独立因子として、物質の種類、試験デザインおよびrTMSパラメータを用いた。

結果

左背外側前頭前野(DLPFC)に対する興奮性rTMSは、偽刺激と比較して渇望を有意に減少させることが示された[Hedges’ g=-0.62;95%信頼区間(CI)=-0.89~-0.35;P<0.0001]。

さらにメタ回帰により、興奮性左DLPFC刺激を使用した研究間で、刺激パルスの総数と効果の大きさの間に有意な正の相関があることが明らかになった(P=0.01)。

渇望に対する他のrTMSプロトコルの効果は有意ではなかった。

しかし物質消費を検討した場合、左DLPFCに対する興奮性rTMS並びに、両側DLPFCおよび島皮質に対する興奮性深部TMS(dTMS)は、偽刺激と比較して有意な消費抑制効果を示した。

結論

背外側前頭前野に対する興奮性反復経頭蓋磁気刺激は、物質依存患者の渇望と物質消費を抑制する急性効果があるように思われる。

抗渇望効果は刺激量と関連している可能性がある。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

医療法人社団こころみ採用サイト

また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

画像名の[sample]の部分に記事の名前を入れます

執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年2月26日

\ この記事をシェアする /

TWITTER FACEBOOK はてな POCKET LINE

関連記事

スポーツ選手を悩ますイップスの症状とは?薬に頼らない治療法についても解説

勝負が決まる場面で思うようなプレーができず、悔しい思いをしたアスリートの方もおられるのではないでしょうか。 競技中に手がふるえたり、動かなくなってしまったりして、いつも通りのプレーができなくなってしまうことがあります。 … 続きを読む スポーツ選手を悩ますイップスの症状とは?薬に頼らない治療法についても解説

投稿日:

【2024年2月最新】東京のTMS治療クリニック24院!見極めポイントを精神科医が詳しく解説

目次 東京でのTMS治療 東京で安心できるTMSクリニック5選 東京でTMS治療を受けられるその他の16医療機関 TMS治療クリニックの選び方 東京横浜TMSクリニックについて 感染対策について 東京でのTMS治療 うつ… 続きを読む 【2024年2月最新】東京のTMS治療クリニック24院!見極めポイントを精神科医が詳しく解説

投稿日:

コロナ後遺症に対し新規経頭蓋磁気刺激法(rTMS)による治療開発 ~多施設共同ランダム化プラセボ対象比較試験の開始~

臨床研究の概要 医療法人社団こころみ東京横浜TMSクリニックは、「コロナ後遺症に伴う不安抑うつ・認知機能障害に対する新規経頭蓋刺激療法(rTMS)による治療法開発に向けた多施設共同試験」を実施いたします。 新型コロナウイ… 続きを読む コロナ後遺症に対し新規経頭蓋磁気刺激法(rTMS)による治療開発 ~多施設共同ランダム化プラセボ対象比較試験の開始~

投稿日:

人気記事

子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

「長い子育てを終えて、やっとひとりの時間ができる」 「子育て中はできなかったことを、たくさん楽しもう!」 そんな風に、子育てを終えた解放感を味わう方もいるでしょう。ですがその反面、強い喪失感や虚無感に苦しむ方も存在します… 続きを読む 子育てひと段落で喪失感?「空の巣症候群」になりやすい人と治療法を解説

投稿日:

冬の寒さがメンタルに影響?「冬季うつ」の原因と対策

「冬になると気分が落ち込む」「寒さでやる気が出ない」と、冬になるたびに変化するご自身の体調に戸惑っていませんか? 不調を感じているご本人や、ときには周囲からも「寒さが苦手なだけだろう」と思われがちな冬の不調。 実は、冬季… 続きを読む 冬の寒さがメンタルに影響?「冬季うつ」の原因と対策

投稿日:

精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

「車がないと会社に通勤できない」 「仕事で車を運転する必要がある」 「生活するうえで、車がないと困る」 日常生活の中で、車の運転が必須になっている方もいるでしょう。 それは、精神疾患の治療をしている患者さんも同じです。お… 続きを読む 精神疾患のお薬を服用しながら運転はできる?お薬に頼らない治療法も紹介

投稿日: