成人の大うつ病エピソードの急性期治療における手術を伴わない脳刺激の有効性と受容性の比較:システマティックレビューとネットワークメタアナリシス

こちらの論文は、BMJに掲載された非侵襲的脳刺激法の有効性や受容性を、プロトコールごとに解析したネットワークメタアナリシスになります。

こちらによれば、

  • 両側ECT(要約オッズ比8.91、95%信頼区間2.57~30.91)
  • 高用量右片側ECT(7.27、1.90~27.78)
  • プライミング経頭蓋磁気刺激(6.02、2.21~16.38)
  • 磁気けいれん療法(5.55、1.06~28.99)
  • 両側rTMS(4.92、2.93~8.25)
  • 両側シータバースト刺激(4.44、1.47~13.41)
  • 低頻度右rTMS(3.65、2.13~6.24)
  • 間欠的シータバースト刺激(3.20、1.45~7.08)
  • 高頻度左rTMS(3.17、2.29~4.37)
  • tDCS(2.65、1.55~4.55)

こちらの10の方法は、シャム刺激よりも有意に治療反応が認められました。

なおいずれの方法も、忍容性の面ではシャム刺激と変わらないとされています。

それぞれの治療プロトコールごとにバラつきの違いはありますので、どのプロトコールが勝っているかを議論するのは難しいです。

両側rTMSもしくは両側シータバースト(iTBS+cTBS)は、従来の方法よりも有効性が高い可能性があります。

論文のご紹介

TMs治療の効果と忍容性をプロトコールで比較したネットワークメタアナリシスをご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

目的

成人の大うつ病エピソードの急性期治療に対する手術を伴わない脳刺激の比較臨床効果と受容性を推定する。

デザイン

ペアワイズで分析したシステマティックレビューおよびネットワークメタアナリシス。

データソース

2018年5月8日までのEmbase、PubMed/Medline、PsycINFOの電子検索に加え、いくつかのレビュー(2009年から2018年の間に発表されたもの)と含まれる試験の目録を手動で検索して補った。

研究を選択するための適格基準

電気けいれん療法(ECT)、経頭蓋磁気刺激(反復(rTMS)、加速、プライミング、深部、同期)、シータバースト刺激、磁気発作療法、経頭蓋直流刺激(tDCS)、または偽刺激に無作為に割り付けた臨床試験。

主要評価項目

主要評価項目は奏効率(有効性)と全原因による治療中止(理由を問わず治療を中止)(受容性)で、オッズ比と95%信頼区間で示した。

また、治療後の寛解と連続したうつ病重症度スコアも調べた。

結果

大うつ病性障害または双極性うつ病の患者6750人(平均年齢47.9歳、女性59%)を無作為化した113試験(262治療群)が組み入れ基準を満たした。

最も研究された治療法の比較は、高頻度の左rTMSおよびtDCS対偽刺激であり、最近の治療法はまだ研究されていない。

エビデンスの質は、一般的にバイアスのリスクが低いか不明瞭であり(113試験中94試験、83%)、治療効果の要約推定値の精度にはかなりのばらつきがあった。

ネットワークメタアナリシスでは、18の治療戦略のうち10の戦略が、偽刺激と比較して高い奏効率と関連していた

:両側ECT(要約オッズ比8.91、95%信頼区間2.57~30.91)、高用量右片側ECT(7.27、1.90~27.78)、プライミング経頭蓋磁気刺激(6.02、2.21~16.38)、磁気けいれん療法(5.55、1.06~28.99)、両側rTMS(4.92、2.93~8.25)、両側シータバースト刺激(4.44、1.47~13.41)、低頻度右rTMS(3.65、2.13~6.24)、間欠的シータバースト刺激(3.20、1.45~7.08)、高頻度左rTMS(3.17、2.29~4.37)、tDCS(2.65、1.55~4.55)。

積極的な介入を別の積極的な治療と対比させたネットワークメタ分析による推定では、両側ECTと高用量右片側ECTが反応の増加と関連していた。

すべての治療戦略は、少なくとも偽刺激と同等の受容性であった。

結論

これらの知見は、成人の大うつ病エピソードに対する代替療法または追加療法として、手術を伴わない脳刺激技術を検討するためのエビデンスとなる。

これらの所見はまた、脳刺激の専門分野における重要な研究の優先順位を明らかにしている。

例えば、新しい治療法を比較した、よりよくデザインされたランダム化対照試験や、磁気発作療法を調査した偽刺激対照試験の必要性などである。

論文中の効果と忍容性のまとめを日本語訳して引用しました。

公開されているビジュアルアブストラクトを、一部日本語訳して引用いたしました。

Fig4,6を引用しました。

Fig4と6を並べて、引用いたしました。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年11月20日

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