脳卒中とTMS治療

脳卒中の後遺症にTMS治療は、「効果がある可能性がある」と考えられています。

その後遺症の内容によって異なりますが、上肢(手)麻痺に対してエビデンスレベルAとなっています。

その他にも失語症や下肢麻痺などにも治療が試みられており、原則としてTMS治療後にリハビリも併せて行っていきます。

ここでは脳卒中についてご紹介し、治療選択肢としてリハビリ領域中心にTMS治療の可能性をお伝えしていきたいと思います。

脳卒中とは?

血管が詰まる(閉塞)または破れる(破綻)ことにより、突然何らかの神経症状が出現した場合、脳卒中と総称されます。

「脳血管障害」と呼ばれることもあります。

脳卒中は、悪性新生物(がん)、心疾患、老衰に次いで、日本人の死因別死亡率の第4位に入っています(2021年)。

高血圧症などの生活習慣病の管理、脳卒中に対する治療法の進歩により、昔と比べて死亡数は減ってはいますが、後遺症のために日常生活に重大な支障をきたすことは少なくありません。

原因による分類

脳血管の障害のされ方により、以下のように分類されます。

  • 虚血性疾患:脳血管の閉塞
    脳梗塞…脳の動脈が閉塞して血液の流れが途絶える
  • 出血性疾患:脳血管の破綻
    脳出血…脳内の細い動脈が破綻して脳実質内に出血する
    クモ膜下出血…脳動脈瘤(血管にできたこぶ)の破裂や外傷により、クモ膜下腔に出血する

脳卒中の危険因子

脳卒中の危険因子には、以下のようなものがあります。中でも、高血圧のコントロールが脳卒中発症を防ぐ上で最も重要です。

  • 基礎疾患
    ①高血圧症
    ②脂質異常症
    ③糖尿病
    ④心房細動
  • 生活習慣
    ①喫煙
    ②過度な飲酒
    ③肥満
    ④運動習慣の欠如

症状の特徴

脳内のどの血管が閉塞または破綻するかによって、様々な症状が出現します。代表的なものとして、

  • 運動障害:片麻痺、単麻痺、顔面麻痺、眼球運動障害、構音障害
  • 感覚障害:しびれ、感覚の鈍さ
  • 失語:言葉が出ない
  • 運動失調:ふらつき
  • 意識障害
  • 頭痛
  • 嘔気嘔吐

脳卒中の診断

病歴聴取、診察に加えて、血液検査、心電図検査、頭部CT・MRIといった検査が速やかに行われます。

低血糖症やてんかん発作、脳腫瘍など、脳卒中と似たような発作を起こす病気が除外する必要があります。

特に頭部画像検査により、最終的に脳卒中と診断されます。

脳卒中の基本的な治療法

脳卒中全体の急性期治療として、血圧管理、輸液、リハビリテーションが開始されます。

脳梗塞の場合、発症からの経過時間が短く、条件を満たす場合には、血栓溶解療法、脳血管内カテーテル治療が行われます。

また脳梗塞の原因によって、抗血小板療法、抗凝固療法が選択されます。

脳出血の場合、出血部位や出血量によっては、外科的治療が行われます。

くも膜下出血の場合には、発症からの経過時間、重症度などに応じて、開頭クリッピング術や動脈瘤コイル塞栓術が選択されます。

急性期を過ぎた後にも何らかの症状が残ることが多く、機能の回復と維持を期待してリハビリテーションが継続されます。

TMS治療は、これらの後遺障害に対するリハビリを促進する方法として、TMS治療が探求されています。

脳卒中に対するrTMS治療方法と費用

rTMS治療では、障害部位の機能代償部位の活性化することで効果を期待していきます。

脳卒中によって障害をうけると、その周囲が機能を補うようになりますが、その働きを高めるようにアプローチします。

脳は半球間抑制といって、左右でバランスをとっています。

このため2つのアプローチがあり、健側を低頻度刺激で抑制して病側を活性化させる方法と、病側を高頻度刺激で直接活性化させる方法があります。

現状では、健側を低頻度刺激で抑制する方法のほうがエビデンスがあります。

基本的にはTMS刺激のあとに、リハビリもおこなうことで効果を促進していきます。

日本では慈恵医科大学を中心に、原則として入院治療の中でrTMS療法を行っています。

脳卒中の方でうつ症状を伴う場合もありますが、けいれん発作のリスクを考慮する必要があります。

脳卒中のTMS治療プラン

PTSDのTMS治療としては、大きく2つの方法が行われます。

  1. 健側への低頻度刺激
  2. 病側への高頻度刺激

健側への低頻度刺激が基本的なプロトコールになります。

当院でのTMS治療費

当院では現在、脳卒中に対してのTMSは実施していません。

うつ症状に対しては、リスクを検討していきながら低頻度刺激を中心に検討していきます。

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

脳卒中でのTMSのエビデンス

TMSのガイドラインの論文ご紹介

論文の詳細は、こちらをご覧ください。

2020年にClinical Neurophysiology誌へ掲載されたrTMSガイドラインでは、論文の質を症例数、ランダム化や二重盲検化の有無をもとにクラス1(質が最も高い)~クラス4(最も低い)に分類しました。

クラス別の報告数から、病気や症状ごとに、エビデンスレベルをA(確実に有効・無効)~C(有効・無効かもしれない)の3段階に位置づけています。

こちらでは、脳卒中による症状の関係としては以下に分類されました。

  • A:脳卒中の急性期後における手の運動回復を目的とした傷害反対側のM1に対する低頻度(LF)rTMS
  • B:脳卒中の急性期後の運動回復促進を目的とした傷害同側側M1に対するHF-rTMS
  • B:慢性脳卒中後非流暢性失語症における右下前頭回に対するLF-rTMS

その他の論文

一次運動野へのrTMSが上下肢の麻痺だけでなく、嚥下障害や失語、痛みや気分、認知面での脳卒中の諸症状を改善させる可能性があることが報告されています。
【脳卒中生存者における一次運動野のrTMS-運動リハビリテーション以上の効果あり:ミニレビュー】

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

脳卒中の後遺症に対して、リハビリテーションと組み合わせることでのTMS治療の可能性が少しずつ模索されています。

うつ症状を合併している場合は、リスクを検討した上でTMS治療が選択しとなります。

このように適切なTMS治療を行っていくためには、TMS治療の知見はもちろんのこと、前提となる治療経験が非常に大切です。

当院ではリハビリテーションでのTMS治療は実施していませんが、病院を中心に、入院でのリハビリと組み合わせたTMS治療がおこなわれています。

TMS治療にご興味お持ちの方は、当ブログの「病院を探す」からご覧ください。

執筆者紹介

三宅 善嗣

日本神経学会神経内科専門医/日本臨床神経生理学会専門医/日本内科学会認定内科医

大澤 亮太

監修者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2023年3月20日

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