ブレインフォグとは?磁気刺激によるTMS治療の効果

ブレインフォグとうつ病のイラストになります。

新型コロナウイルス感染症の後遺症として話題になるブレインフォグ。

ブレインフォグは正式な医学用語ではなく、そのまま訳せば「脳の霧」になりますが、頭の中にモヤがかかったような状態をさしています。

コロナ後遺症としてのブレインフォグには、エビデンスはまだまだですが、rTMS療法が治療方法の一つではないかと期待されています。

しかしながら根拠と信憑性が極めて疑わしい結果や論文でミスリードし、専門外来を掲げながら不適切なTMS治療を行っている医療機関もでてきており、しっかりと専門家に相談することが大切です。

ここではブレインフォグについてお伝えし、TMS治療の可能性についても見ていきたいと思います。

当院では、コロナ後遺症に対するTMS治療プロジェクトを実施して論文化し、評価の高い海外専門誌に掲載されました。

ブレインフォグに対しては独自プロトコールで非常によい結果が認められたのですが、まだまだ効果があると断言できるエビデンスとはいえません。
2施設でのコロナ後遺症関連の認知機能低下に対するTMS治療についてのケースシリーズ

ブレインフォグとは?

ブレインフォグのイメージ画像

「ブレインフォグ」とは、頭の中にモヤがかかったようにぼんやりして、物事が思い出せない状態を表す言葉になります。

医学的な病名ではなく、一般的に症状をあらわす言葉として使われるようになっています。

古くは、放射線治療後の思考力低下(白質脳症)などで使われることがありましたが、あまりメジャーな表現ではありませんでした。

「新型コロナ流行で、後遺症としてブレインフォグの症状が出る人が増加した」とテレビやインターネットで取り上げられる機会が増えたことから、世間的にも「ブレインフォグ」の認知度が高まりました。

ブレインフォグを治療するにあたっては、次のことに気を付ける必要があります。

病名ではなく症状

第一に認識していただきたいのは、ブレインフォグは医学的病名ではないことです。

「私はブレインフォグでしょうか?」と当院にご相談に来る方もいらっしゃいますが、診断名としてブレインフォグの名前がつくことはありません。

いわば症状の表現として、世間で使われている言葉です。

その背景には様々な原因が考えられ、個人差があるでしょう。

心の病気の症状としてみるならば、思考抑制や制止を疑わせるような症状になります。

ですからブレインフォグは、「病名」ではなく「症状」ととらえたほうが適切です。

よくある症状

「自分はブレインフォグなのではないか」と感じている方は、以下の症状を抱えていることが多いです。

  • 頭がぼーっとして集中できない
  • 物事が思い出せない
  • 相手の話が頭に入ってこない
  • 今までできていたマルチタスクができない
  • テレビがうるさく聞こえる
  • おっくうで考えがすすまない

実際に上記の症状を感じても、「ブレインフォグと診断がつかないなら、治療方法はあるの?」と不安を感じる方もいるでしょう。

ブレインフォグは症状の一部にすぎないこともあり、症状の経過などから病態を推測していく必要があります。

たとえば、ご自身では「ブレインフォグかもしれない」と感じている症状が、うつ病の症状であることもあり、その場合は治療することが可能なのです。

ときには治療を開始して、その反応をみていきながら病態を考えていくこともあります。

コロナ後遺症として相談いただくブレインフォグは様々な原因が考えられ、治療エビデンスも当然乏しいため、試行錯誤しながら最適な治療法を見つけていきます。

コロナ後遺症としてのブレインフォグ

新型コロナウイルス後遺症としてのブレインフォグは、うつ症状では説明がつかないケースも当然あります。

これまでメンタルヘルスでの問題を経験したことがない方が、

明らかにコロナ感染を契機にブレインフォグを呈することがあります。

コロナウイルス感染の影響は分かっていないことばかりですが、ブレインフォグの症状が引き起こされるには様々な病態が関係していると考えられています。

コロナ後遺症の患者さんの脳は、構造的な変化が生じているという研究報告もあります。

新型コロナ後遺症とは?TMS治療の可能性

うつ病の症状である可能性?

ブレインフォグとうつ病の関係を示したイラストです。

「今までできたことができなくなる」「頭の中にモヤがかかっているようで集中できない」といったブレインフォグの症状は、うつ病の患者さまが感じる症状とよく似ています

うつ病の症状として、以下を例にあげます。

  • 気分が落ち込む
  • 意欲が低下する
  • 倦怠感がある
  • 相手の話や本の内容が理解できない
  • イライラすることが増える
  • 好きだったことを楽しめない

睡眠障害や食欲減退など、体の不調も多く出るうつ病ですが、心の症状にフォーカスを当ててみると、ブレインフォグの症状と類似しているものがあるとわかります。

いわゆる「思考抑制」といわれる思考障害、「制止(精神運動抑制)」などの意欲・行動の障害になります。

例えばこの思考抑制を、「ブレインフォグの症状である」とご自身で判断している可能性があるのです。

気分の落ち込みといった典型的なうつ病の症状が目立たなくても、こういった思考障害などがストレスの蓄積などであらわれてくるケースもあります。

ブレインフォグとプレゼンティーイズム

ブレインフォグとプレゼンティーズム(生産性低下)のイラストです。

また、うつ症状までいかなくても、「Presenteeism(プレゼンティーイズム)」と呼ばれる状態になっている可能性もあります。

プレゼンティーイズムとは、心身の不調によって、出勤時に思うようにパフォーマンスが取れない状態のことです。

2000年頃から主に北欧と米国で研究が始まった概念で、現在では様々な研究が進められています。

プレゼンティーイズムの定義は、以下の4つが提案されています。

  • 体調不良を無理して出勤している状態
  • 病気をかかえながら出勤している状態
  • 出勤できている労働者の生産性低下
  • 健康問題に関連する労働生産性損失

プレゼンティーズムの測定方法も検討がなされていて、それをもとに数字で生産性低下が分かるようになってきています。

プレゼンティーイズムの原因は様々なものがありますが、原因のひとつとして、「うつ症状が回復していない状態である」可能性も考えられます。

プレゼンティーイズムは産業衛生(職場のメンタルヘルス)での概念にはなりますが、うつ病の治療経過でも精神運動抑制は遅れて回復してくることが多く、それが社会生活の支障になっていることがあります。

このような場合は、薬物療法であれば治療を強化することで改善が期待できますし、TMS治療も良い適応になります。

ブレインフォグの治療法

ブレインフォグの治療法としては、その原因によってもアプローチが異なります。

明らかにコロナ感染後からの症状で、そのほかの精神症状が認められない方もいらっしゃいます。

そのような方にTMS治療の効果が期待できるかは、メカニズムとしては効果が期待できそうではありますが、正直なところ手探りとなっています。

そしてストレスの自覚や心の不安定さを自覚する場合にまず考えていくのは、ご自身ではブレインフォグだと感じていたものが、「うつ病やうつ状態かどうか」という点です。そうだとすれば、エビデンスのある治療法があるのですから。

「ブレインフォグ」という曖昧な概念の中には、他の精神疾患からくる症状が隠されている可能性もあります。

うつ症状以外にも、睡眠時無呼吸症候群や睡眠障害、こちらも広い概念ですが、慢性疲労症候群なども原因となることがあります。

ブレインフォグは症状のひとつにすぎないため、専門家に相談していただき、原因に合った治療を受けることが大切です。

コロナ後遺症に対するブレインフォグの治療法

明らかにコロナ感染後に認知機能低下(ブレインフォグ)が認められている場合は、うつ状態に準じて治療を行っていくことが多いです。

当法人では、このようなブレインフォグに対するTMS治療の臨床研究を実施し、非常に良い結果が認められました。

現在、さらにエビデンスを高めるべく、臨床研究を計画しています。

TMS治療は、コロナ後遺症のブレインフォグに対する有効な治療選択肢になる可能性は非常に大きいと考えています。

現時点でのブレインフォグに対するTMS治療

当院ではコロナ後遺症に対するrTMS療法の効果を科学的に検証するために、臨床研究を進めております。

2023年9月頃より、条件を満たした患者様に対して、臨床研究を開始させていただく方向で、倫理委員会のもとで審議を進めております。

そちらの解析結果を踏まえて、当院での特殊プロトコールでの治療を正式に開始したいと考えております。

現在は、従来のうつ病・うつ状態に対するrTMS療法と同じ方法で実施させていただきます。

こちらの方法でもブレインフォグに対しての治療効果の実感は得られています。

治療費も含めて考えますと、まずは左高頻度刺激を検討していくことが多く、治療経過を見ながら刺激方法を相談していきます。

当院の治療費については、機械の使用時間をもとに設定しております。

  • 左高頻度刺激:10分枠 4,950円(税込)※継続3,300円~
  • 右低頻度刺激:20分枠 8,250円(税込)※継続6,600円~
  • 右低頻度刺激:30分枠 13,200円(税込)※継続9,900円~

治療費について詳しくは、TMS治療費のページをご覧ください。

うつ病治療とブレインフォグ

うつ病の4つの治療法についてイラストにしました。

ご自身ではブレインフォグと感じていた症状が、うつ病やうつ状態である場合は、治療で改善が期待できます。うつ病の治療は、大きく以下の4つにわけられます。

  • 休息
  • 薬物治療
  • 心理療法
  • その他の治療

基本的には休息と薬物治療で回復を目指すことが多いですが、お薬に抵抗がある場合も含めて、薬と相性が悪い方も存在します。

そういった方には、「4.その他の治療」に含まれるTMS治療を提案する場合もあります。

TMS治療のブレインフォグへの有効性

TMS治療は、磁気を介して脳の特定部位をピンポイントで刺激する治療法です。

お薬に頼らない新しい治療法として2019年6月に日本でも認可され、近年日本国内でも注目が高まっています。

コロナ後遺症に伴うブレインフォグの治療法として、TMS治療の有効性はまだ確立されていません。

TMS治療で回復する可能性があると間違いなくいえるのは、「うつ病症状が疑われる方に対して」になります。

まずは臨床経験の豊富な専門家に相談し、ご自身で感じているブレインフォグの症状がどのようなものかを探りましょう。

うつ病の症状と関連があれば、TMS治療にて改善を目指すことは有効な治療選択肢になります。

また当院では、コロナ後遺症での脳構造変化とこれまでの治療知見をもとに、効果が期待できるrTMS療法を探索するプロジェクトを実施しています。

独自のプロトコールでブレインフォグには良い治療成績となり、英語論文として2つの有力専門誌に掲載されました。

さらにエビデンスを固めるべく、臨床研究を進めていく方針でおります。

うつ病とTMS治療

ブレインフォグについてのまとめ

ブレインフォグの治療で重要なことは、診断をきっちりと経験ある専門家が行うことです。

今回は、近年認知度が高まっている「ブレインフォグ」について解説しました。

記事のポイントを、以下にまとめます。

  • 「ブレインフォグ」は、思考障害の症状のひとつ
  • ブレインフォグの治療方法は、TMS治療含めてまだ確立されていない
  • ブレインフォグの症状だと思っているものが、うつ病やプレゼンティーイズムの可能性はある
  • ブレインフォグの原因を判断するには、専門家の診察を受けることが大切
  • うつ病と診断された場合は、治療で改善が期待できる
  • うつ症状であれば、「TMS治療」も有効な治療選択肢になる

TMS治療をご検討の方へ

TMS治療の効果の強みと、向いている患者様をまとめた図表になります。

コロナ後遺症によるブレインフォグが話題になる中、「ブレインフォグ外来」などを掲げている医療機関もみられるようになりました。

TMS治療を行っている医療機関のなかでもブレインフォグを扱っているところがありますが、TMS治療が適切かの判断は心の診療経験が非常に大切です。

当院には10名の精神科医が在籍していますが、両方に精通した医師4名のみ(2021年9月現在)が担当させていただきます。

ブレインフォグは、うつ症状である場合はTMS治療が治療選択肢のひとつになりますので、患者さんの立場にたってご相談させていただきます。

TMS治療にご興味お持ちの方は、東京横浜TMSクリニックにご相談ください。

【お読みいただいた方へ】
医療法人社団こころみは、東京・神奈川でクリニックを運営しています。
「家族や友達を紹介できる医療」を大切にし、各クリニックでコンセプトをもち、社会課題の解決を意識した事業展開をしています。
医療職はもちろんのこと、法人運営スタッフ(総合職)も随時募集しています。

医療法人社団こころみ採用サイト

また、当法人ではTMS診療の立ち上げ支援を行っており、参画医療機関には医療機器を協賛価格でご紹介が可能です。
ご興味ある医療者の見学を随時受け付けておりますので、気軽にお声かけください。

取材や記事転載のご依頼は、最下部にあります問い合わせフォームよりお願いします。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

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執筆者紹介

野田 賀大

慶應義塾大学医学精神・神経科学教室特任准教授 当院TMS学術・技術顧問

日本精神神経学会ECT・rTMS等検討委員会委員 日本うつ病学会ニューロモデュレーション委員会委員 日本臨床神経生理学会 脳刺激法に関する委員会委員 The International Federation of Clinical Neurophysiology Editorial Board of Clinical Neurophysiology

厚生労働省精神保健指定医/日本精神神経学会精神科専門医/日本精神神経学会精神科医指導医

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年2月6日

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