大うつ病性障害の反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)治療における併用薬と臨床アウトカム

こちらの論文は、

のページに引用しています。

ベンゾ系はできれば減薬

こちらの論文は、TMS治療を行っている患者さんの服薬状況とその効果を調べた論文になります。

181名の患者さんの服薬状況を整理し、左DLPFC高頻度刺激をまず実施し、反応が不十分な方には右DLPFC低頻度刺激を行っています。

その結果として、抗不安薬や睡眠薬などのベンゾジアゼピン系薬を使っている患者さんの治療効果は低く、精神刺激薬を使っている患者さんの治療効果は高いという結果となっています。

TMS治療は脳皮質の興奮性に影響する薬を使うと、その効果が変化することは感覚的に知られています。この結果は、その感覚を裏付けているといえます。

とはいえ、例えばベンゾジアゼピン系のお薬を使わざるを得ないような患者さんは、不安症状が強い可能性が高く、そのためにTMS治療の効果が薄れている可能性もあります。

ですから結論はつけられないものの、ベンゾジアゼピン系はなるべく減らした方がTMS治療効果が高まるということは、ほぼ間違いないと思われます。

精神刺激薬としては、日本ではうつ病のみが適応としてみとめられていますが、今の時代にうつ病で処方することはしません。

依存性の問題もあり、同じ精神刺激薬のリタリンではうつ病の適応が取り下げられています。

TMS治療の効果を高める目的では、デメリットの方が大きいために絶対に使うべきではありません。

ですから現実的には、ベンゾジアゼピン系のお薬をできる範囲で減薬することが、TMS治療の効果を高めるために有効といえます。

論文のご紹介

TMS治療と併用薬について調べた論文をご紹介します。

英語原文は、こちら(Pub Med)をご覧ください。以下、日本語に翻訳して引用させていただきます。

背景

反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)は、向精神薬を服用している大うつ病性障害(MDD)患者に一般的に行われているが、治療アウトカムへの影響は不明のままである。

我々は、併用薬がrTMSの標準コース治療における臨床反応にどのように関係するかを検討した。

方法

6週間のrTMS治療コースを受けた181名のMDD患者の投薬状況を集計した。

すべての患者が左背外側前頭前野(DLPFC)に10HzのrTMSを受けたが、左側の刺激に対する反応が不十分または不耐性の患者には右DLPFCに1Hzを与えた。

主要アウトカムは、2、4および6週間後のIDS-SR30(Inventory of Depressive Symptomatology Self Report)の総スコアの変化であった。

結果

ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は2週目における改善度が低かったのに対し、精神刺激薬の使用は2および6週目における改善度が高かった。

これらの効果は、年齢、全体的な症状の重症度、不安症状の重症度などのベースライン変数をコントロールして有意であった。

6週目における反応率は、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用者は非使用者よりも低く(16.4% vs. 35.5%、p=0.008)、精神刺激薬の使用者は非使用者よりも高かった(39.2% vs. 22.0%、p=0.02)。

結論

薬物の併用はrTMSの治療アウトカムに影響を与える可能性がある。

今回報告された差は臨床的に有意であると考えられるが、結果は多重比較で補正されておらず、臨床家がこのエビデンスを臨床に取り入れる前に、今回の知見を再現する必要がある。

仮説に基づいた前向きの治療研究は、投薬治療とアウトカムの間の因果関係を決定するのに役立つだろう。

TMS治療と併用薬の影響を調べた論文の結果を紹介しているグラフになります。

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執筆者紹介

大澤 亮太

医療法人社団こころみ理事長/株式会社こころみらい代表医師

日本精神神経学会

精神保健指定医/日本医師会認定産業医/日本医師会認定健康スポーツ医/認知症サポート医/コンサータ登録医/日本精神神経学会rTMS実施者講習会修了

カテゴリー:こころみ医学  投稿日:2021年7月2日

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